工業簿記の本質基礎講座・第10回(費目別計算)

費目別計算の問題は盲点になりやすい
141回工業簿記、費目別計算の問題。1年前の問題だ。受験した方は覚えているだろう。
私も解答速報作成のために当日解いた。解きながら「これは簡単だ」という認識だった。試験委員も講評で「基本的な問題」と記している。それにも関わらず、受験生からの評判は悪かった。難しくてお手上げだ!との声が多数だった。
なぜ、我々講師は簡単だと思ったのか。それは、単に費目別に分類集計し、勘定記入するだけの問題で、ヒネリが無かったからだ。集計項目は多かったものの、別に掛け算や割り算が出て来るわけでもなく、単に合計するだけ。計算ミスする可能性も低い。多くの講師は、これは簡単だと感じたことだろう。しかし、受験生の出来は大変悪かった。教育関係者、みな反省すべきだろう(教え方が悪いということだ)。
日商は出来の悪い論点を繰り返し出す
日商は、一度、出題してみて出来が悪かった論点は、近いうちに繰り返し出題するという傾向がある。そのため、今回の144回に費目別計算が出題されても何ら不思議ではない。要注意論点だ。
そこで、本試験直前の最終確認問題としてやるなら、この141回の過去問をお勧めする。特に費目別のように暗記や慣れがモノを言う論点は直前に再確認しておくと効率がいい。30分ほど時間を割いて是非チャレンジしてほしい。一応、この記事に、間違えそうな箇所の解説を付しておく。もし、それ以外でも疑問点があったらコメント欄に書いてほしい。なるべく早く答えるから。
なお、本当は141回の過去問をこのブログに記載したいのだけれど、そもそも日商は過去問のデジタル配信を認めていないため、それは出来ない。申し訳ないが了承してほしい。
勘定連絡が苦手なら今すぐ復習
さて、この問題の出来が悪かった理由としては、以下の3つが考えられる。
- 資料の多さに圧倒されて頭が真っ白になり、何をしていいのか分からなくなってしまった
- そもそも費目の分類が出来なかった
- 費目の分類は出来たけど勘定連絡がよく分からなくて、どの項目がどこに入るのか分からなかった
1はしょうがない。練習不足だ。もっと練習問題をこなして長文の問題に慣れよう、落ち着こう。まずいのは2と3だ。特に3の勘定連絡が分かっていない場合は、だいぶマズイ。勘定連絡は工業簿記の命だ。細かい論点はさておき、とにかく、費目別計算から仕掛品勘定、製品勘定、売上原価勘定までの一連の流れは必ず押さえておかなければならない。そこが出来ないと工業簿記の問題はほとんど出来ないと言える。
もし、少しでも勘定連絡に自信がないなら、この過去問141回と、前回私が作った問題をやってほしい。工業簿記全体の流れをつかむのに最適だ。今からでも遅くないから必ず復習してほしい。

費目の分類が苦手なら
さて、2の「そもそも費目の分類が出来なかった」というケース。これは、結構ありがちだ。実は、費目別計算は、盲点になりやすいのだ。なぜなら、どのスクールも軽く流してしまいがちだからだ。費目別計算の問題は、ここ10年以上出題されていない。するとどうしても扱いが軽くなる。そして2級でも一通り学習しているのだから、まあ1級は軽くでいいだろう、という意識も働く。結果的に対応が手薄になっていた可能性があるのだ。
ここでは、あらためて費目の分類のコツを紹介しよう。
費用の形態別分類(材料費、労務費、経費)の多くは、費目から判断できるが、中には判断が微妙なケースもある。一見すると暗記するしか無いようにも思えるが、覚え方にコツがある。
まず、考えなければいけないのは「工場や工員に関係する費用なのかそれ以外なのか」ということだ。前者は製造原価、後者は販売費および一般管理費だ。
次に、製造原価なら、それを材料費、労務費、経費に分類する。 「材料費」という言葉のイメージからすると、製品製造のための原材料のみが該当し、机や台車などは経費のようにも感じられるが、これらも材料費だ。工場で使う物品はすべて「材料費」であると覚えるといい。(工場で使う物品といっても減価償却を行うような大型設備などは材料費ではない。大型設備などは、その減価償却費を経費として分類する。) そういう意味では、材料費は「物品費」というイメージで覚えておくと間違いない。
この材料費の定義をきちんと覚えておけば「棚卸減耗損」が経費である、というのは理解しやすいはず。「棚卸減耗損」は、もう無くなってしまった分だから物品ではない。だから経費だ。
労務費関連では、間違えやすいのが法定福利費と福利施設負担額だ。これを間接労務費とするか間接経費とするかは混乱しがちだ。覚え方のコツは、従業員個々人の負担額が明確なものは労務費、それ以外は経費だ。 たとえば、法定福利費はそれが明確だから間接労務費、福利施設負担額は間接経費だ。
141回の間違えそうな箇所の解説
最後に141回を解くさいに間違えそうな箇所の解説を載せておく。これ以外でも疑問点があるようなら、遠慮せずにコメント欄に書いてほしい。なるべくすぐに答えるから。
- 1で生じる棚卸減耗損は間接材料費ではなく間接経費であることに注意。
- 5の工員募集費は、従業員個々人に掛かるものではないので間接経費。
- 6は予定平均賃率で計算しているという点に注意。予定賃率使っているなら賃率差異が出るはず。これは最終的にどこにいく?
- 9と21の製造間接費の配賦差異は、どこから生じて、最終的にどこにいく?
- 12の新技術基礎研究費は間違える人が多そうな気がする。いわゆる研究開発費だ。これ、販管費だよ。商会でやってるよね。これが研究開発費ではなくて開発費なら繰延資産の可能性もあるけど、新技術基礎研究費は全額費用処理だからね。間違えないように。
- 13はもし耐用年数1年を超える器具なら減価償却対象なのでその減価償却費が間接経費になる。しかし1年未満なら消耗工具器具備品で間接材料。
- 15は間接経費。上記の費目別の分類のコツを参照のこと。
- 16も間接材料。上記の費目別の分類のコツを参照のこと。
- 22も間違える人多そうな気がする。土地を買ってもそれは現金預金という資産が土地という資産に代わっただけで、別に費用は発生していない。だから費目別計算の対象にならない。
- 23の異常仕損費は、どこから生じて、最終的にどこにいく?
- 35の長期休止設備の減価償却費は1級論点だね。原価計算基準「五 非原価項目」に「長期にわたり休止している設備」が記載されいてる。つまり非原価項目。
- 36の除却損は特別損失。工簿というより商会の論点だね。
- 37の工場設備取得費用は、さきの22と同じ。当月末だからまだ稼働していない。つまり買っただけ。ということはまだ費用は何も生じていない。
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いつも楽しく記事を拝見させていただき、勉強しております。
141回の過去問を解いてみたのですが、一点わからない点があります。
記事にあるように、法定福利費は間接労務費と覚えていたので、私は直接工の源泉所得税、社会保険料の18万を間接労務費と集計してしまいましたが、解答を見ると誤りでした。
これは、当月支給分の法定福利費は、支払月に費用処理しないため(例えば前月に仕訳を切っておく)、当月の間接労務費には含まれないということなのでしょうか?
お忙しいところ恐縮ですが、ご回答よろしくお願いいたします。
ここ、大事ですね。
まず、労務費会計は、支給額の話をしているのか消費額の話をしているのかを切り分けて考えなければいけません。
本問の資料6の「当月賃金・手当支給総額240万円(うち源泉所得税、社会保険料など控除額18万円)」は、支給額の話をしています。一方で、間接労務費なのか直接労務費なのかというのは、消費額の話です。
支給と消費がごっちゃになっていませんか?
本問で、消費の話は「当月直接工直接作業賃金 225万円、当月直接工間接作業賃金 17万円、当月手待賃金 3万円 当月定時間外作業割増賃金 8万円」のことです。
ボックス図を使って解いているとして、その場合、支給はボックス図の左上の話です。一方、消費は、ボックス図の右下の話をしています。このあたりがごっちゃになっていないか、確認してみてください。
それともう1つ。
支給については、払い方がどうであろうと、そこに惑わされてはいけません。現金で渡そうが、預り金であろうが、企業としては、賃金給料として当月に240万円分負担しているということに変わりがありません。18万円はその内訳ですから、別途算入してはいけません。
わかりにくいかな。つまりこういうことです。
会社は240万円全額を現金で従業員に払って、従業員が自分で年金機構とか税務署に行って納めてもいいわけです。ただ、それは面倒だろうから、会社がそのお金を預かっておいて、あとで代わりに払ってあげるね、っていう制度が源泉徴収っていう制度です。つまり払い方の話をしているわけで、企業が給料として支給している総額が240万円であることに変わりがないということです。
早速ご返信いただきありがとうございます。
先生のおっしゃる通り、支給と消費がごっちゃになっていました。
支給額と消費額、という意識がなく、勘定連絡も仕訳を起こして機械的に処理しており、労務費会計ではいつも混乱気味でしたが、原因がようやくわかりました。
支給方法についても、どう処理すれば良いものかといつも悩んでいましたが、最後のお話で解決いたしました。支給総額と消費額という意識を持ってもう一度解いてみたいと思います。
丁寧にわかりやすく説明していただき大変助かりました。
ありがとうございました。
いつもブログを参考にさせていただいております。
先日は設備投資の質問にご回答いただきありがとうございました。
141回の問題の費目分類について質問がございます。
ものすごく基本的なことで申し訳ないのですが、
資料2.の補修用鋼材費はなぜ間接経費になるのでしょうか?
補修用ということは各製品に係る金額も明確になる為直接材料費だと考えたのですが、
私の認識が誤っているのでしょうか?
または仕損が発生しない限り、発生がない臨時に発生するので、間接経費とするのでしょうか?
〇原のテキストも過去問題集も間接材料に属するしか記載がない為理由が分からず歯がゆいです。
お忙しいところ恐縮ですが、ご回答よろしくお願いします。
>資料2.の補修用鋼材費はなぜ間接経費になるのでしょうか?
間接材料費のことですか?
>補修用ということは各製品に係る金額も明確になる為直接材料費だと考えたのですが、
それは分かりません。
補修用といえば、接着剤とか塗料とか、パテとかをイメージします。補修用鋼材といえば、補修をするためのアルミとか鉄とかじゃないですかね。いずれも間接材料がイメージしやすいと思いますが。
ただし。
ここで、いや補修用だから特定の製品に紐付けられるはずだ、いや、そんなことはないなどの議論を重ねてもあまり意味はありません。試験における費目別計算は、お約束を知っているかどうかを試されているからです。
ざっくり言えば、主要材料費(原料費)、買入部品費と書かれていればそれは直接材料で、それ以外は間接材料です。原価計算基準の第10項を御覧ください。
試験問題に買入部品と書かれていて「部品といえばネジを想像したので、間接材料にしたら×だった。なぜだ」という話がありますが、買入部品は、車で言うところのタイヤとかエアバッグのことで直接材料と答えるのがお約束です。これをなぜだと言い出しても仕方ないのです。
一般に、工原は理解さえしていれば現場でなんとかなることが多いのですが、この費目別計算だけは理解というより覚えるしかない場合が多いです。
早速ご返信いただきありがとうございます。
費目別計算は2級から苦手で暗記に頼っていました。
問題は解けるのですが、なんでこうなるのかが分からず自分の中でもやもやしてましたが、すっきりしました。
費目別計算はお約束を知っているかどうかが試されるというのは、なるほどですね。
そのような認識を持っていなかったので、もう一度基本から見直します。
お忙しい中ご回答いただきありがとうございました。
楽しい記事をいつもありがとうございます。費目別計算の過去問を解いていました。新技術開発費を販売費にしていました。解答は一般管理費でした。この新技術開発費は本社で行うものなのでしょうか?本社に関係するものが一般管理費になるという認識しています。
本社に関係するものが一般管理費という覚え方はおおむね正しいですが、それだけの覚え方ですと、判別できない費用も出てくることでしょう。意味を押さえて覚えるようにしてください。
基本的に売るためなら販売費、作るためなら製造費用、それ以外なら一般管理費です。(もちろん非原価項目はのぞきます)
例えば、同じ運送費でも販売した商品を客先に出荷するためなら販売費ですし、工場間で部品などを移動したなら製造間接費(間接経費)ですし、バックオフィスの人が何か資料などを送ったなら一般管理費です。
なお、研究開発費は(工業簿記という範疇ではなく)商業簿記で一般管理費として学習されていると思います。お手持ちのテキストで確認してみてください。