工業簿記の本質基礎講座・第1回(製造間接費の差異分析1)

製造間接費の差異分析の背景
工業簿記の基本を本質から学ぼうシリーズ第1回は、製造間接費の差異分析を見ていこう。ここは、日商簿記2級を学習していて多くの人がつまずくところだ。初めてのシュラッター図に面食らうところだろう。
そもそもシュラッター図とは何なのか、予算差異、操業度差異とはどんな意味があるのか。・・・よく分からないけど、とにかく答えだけは出せる。なぜなら計算方法を暗記したから。そんな感じの人が多いのではないだろうか。
まずは、このシュラッター図の予算差異、操業度差異から復習していこう。ここの意味をきちんと理解しよう。この話は、この先の標準原価計算にもつながってくる話だ。
実例で考えてみよう
次のような例を考えてみよう。経営者になったつもりで考えてほしい。
あなたは、工場を経営している。材料を提供してもらい、加工のみを行って納品する工場だ。
収益は、加工賃1個400円で、1日平均200個、月間6,000個の注文が来る予定だ。製造費用は、家賃や間接労務費や減価償却費などの固定費が月額90万円、補助材料費などの変動費が1個あたり100円だ。
毎月の利益はいくら?
さて、毎月の利益を計算してみよう。1カ月フル操業したらいくら儲かるのだろうか。
- 売上は、@400円×6,000個=240万円
- 固定費は 90万円
- 変動費は、@100円×6,000個=60万円
- 利益は、売上240万円−固定費90万円−変動費60万円=90万円
部品1個の製造原価はいくら?
部品1個の製造原価はいくらだろうか。1カ月の受注予定数6,000個にもとづいて考える。
- コストは、固定費90万円+変動費60万円=150万円
- 部品1個あたりの製造原価は、150万円÷6,000個=@250円
@250円のものを@400円で売るのだから@150円儲かる。1カ月で6,000個加工するので、@150円×6,000個=90万円の儲け。さきの計算と一致する。この計画で行こう。そう決意した。
いざ経営してみたらおかしなことになった!
いざ経営してみると、いろいろと思わぬことが起きた。
親会社が不況で5,000個しか注文が来なかった。そこで、この5,000個分の製造原価を計算してみた。部品1個の製造原価は@250円だから、@250円×5,000個=125万円のはずだ。
ところが、実際に届いた請求書を見て驚いた。144万円。あれ?125万円じゃなかったの?19万円も多いんだけどどういうこと?
| 請求書(月間) | |
|---|---|
| 家賃・間接労務費・減価償却費など | 90万円 |
| 補助材料費 | 54万円 |
| 合計 | 144万円 |
・・・と。ここまでのストーリーを完全に把握して欲しい。
どういうこと?
帳簿を確認してみよう
ここで大事なことは、帳簿上は、予定価格を使っているので、原価は、@250円×5,000個=125万円と、記帳されているということだ。
しかし、現実には144万円の請求書が届いている。19万円の差異がある。経営者であるあなたは、この19万円の差異の原因が知りたい。それが原価差異の分析だ。
原価差異の原因を探ってみよう
原価差異の原因を探ってみよう。
- 家賃・間接労務費・減価償却費などは予定通り発生していることが判明した。
- 補助材料費54万円がおかしい。本来@100円×5,000個=50万円のはずなのに4万円も多い。調べたところトラブルで補助材料を無駄にしたことが判明した。
ということで、4万円は原因が分かった。では、あとの15万円はなんだろう。みなさんは分かるだろうか。
残りの15万円の差異の原因は・・・
種明かしをしよう。
これは、そもそも部品の製造原価を@250円として計算していたことが誤りだ。
この@250円は、150万円÷6,000個=@250円から算出されている。つまり6,000個作ることが前提だ。しかし、現実には5,000個しか注文が来なかった。つまりそもそもの計算根拠自体が崩れている。だから@250円という数字を使うこと自体が間違っている。
特に問題なのは、150万円のうちの固定費90万円だ。これは、6,000個だろうが5,000個だろうが、常に90万円掛かる。ということは6,000個作るつもりなら、1個の部品が負担する固定費は、90万円÷6,000個=@150円だけど実際には5,000個しか作らなかったので、1個の部品が負担する固定費は、90万円÷5,000個=@180円のはずだ。つまり、本当は@30円高いはずなんだ。だから、正確に計算すれば1個あたりの原価は@250円じゃなくて@280円が正解だ。
それで計算しなおしてみよう。
製造コストは、@280円×5,000個=140万円、判明している補助材料費の4万円。合計144万円。そして、実際に来ている請求書も144万円。見事に合った。
操業度差異とは・・・
と、理屈はこういうことだけど、実際に帳簿には原価@250円×5,000個=125万円って書いてあるわけだ。本当は@280円×5,000個=140万円なのに。つまり、この差分の15万円は、本当は6,000個作る予定が実際には5,000個しか作らなかったから発生してしまった計算上の差異ということだ。
つまり、予定した操業に達しなかったので計算上不都合が生じて発生した差異であって本当に損しているわけではない。これを操業度差異と名付けようと。こういうことだ。
ここまでの長い長い話をシュラッター図にすると次のようになる。計算自体は、シュラッター図でちゃちゃっと出来るんだろうけど、実は、このシュラッター図の裏にはこういうストーリーがあるってことを知ってほしい。
この話をシュラッター図で表すと・・・

*1:家賃や間接労務費や減価償却費などの固定費の予算額
*2:補助材料費などの変動費の1個あたりの額
*3:固定費予算90万円÷6,000個=150円/個
予算差異:@100円×5,000個+90万円−144万円=△4万円
操業度差異:@150円×(5,000個−6,000個)=△15万円
なるほどね。
予算差異と操業度差異
予算差異とは
さきの例でいくと、無駄になった補助材料費の4万円が予算差異だ。
予算差異というのは、工場の管理者(工場長とか班長とか)にとって大切な差異だ。注意すれば防げる差異だからだ。だから、一般に実務では、予算差異は費目別に分析する。水道光熱費はどうだったか補助材料費はどうかといった具合だ。
仮に予算差異がゼロだとしても、実は内訳を見てみたら、水道光熱費は3万円無駄遣いしていたけど補助材料費が3万円節約していた、なんてこともある。この場合は、プラスマイナスゼロになるけど、費目別で見たら、水道光熱費の3万円無駄遣いは問題だ。だから改善の余地がある。
こういうことを見落とさなさいためにも、実務では、予算差異は費目別に分析するんだ。学習簿記では合算した値しか計算しないけどね。
操業度差異とは
操業度差異というのは、非常に分かりにくい差異だ。これは、あくまでも計算上の不都合による差異だ。さきの例だと固定費90万円を6,000個作る予定で、1個あたり150円の製品原価だと決めた。そして、実際には5,000個しか作ってないから、@150円×5,000個=75万円を帳簿に記載した。だけど、90万円は固定費なんだから、何個作ろうとも90万円が請求される。でも帳簿には75万円しか載ってない。よって15万円の差異が出る、これを操業度差異と呼んでいるにすぎない。
冷静に考えれば、最初から毎月固定で90万円掛かることは分かっていて、本当に90万円請求されているのだから、実際には損をしているわけでもなんでもない。あくまでも帳簿上75万円で記帳しちゃっているから計算上15万円の差異が出ているだけだ。
で、その15万円の操業度差異の計算方法だけど、2通り考えられる。
1つは、さきの解説にもあるとおり、本当は1個あたり固定費は、90万円÷5,000個=@180円なのに、90万円÷6,000個=@150円で計算している。よって@30円高い。それを5,000個作ったので@30円×5,000個=15万円という計算だ。
しかし、テキストにはそうは載っていない。6,000個作る予定で@150円と計算したけど実際には1,000個足りなかった。だから、@150円×1,000個=15万円と計算する。シュラッター図もそういう計算の図になっている。でも、どちらも同じ意味だ。数学的には等しい話をしている。
誰に責任があるのか
さきにも書いたが予算差異は、工場の管理者に責任がある。最初に予算を組んでいるのにそれをオーバーしているということは、何かしらミスや無駄があるのだ。そして、多くの場合、それは工場の管理者にとって管理可能だ。つまり、改善が見込めるのだ。だから予算差異はとても重要な差異だ。
それに対して、操業度差異はどうだろう。これ、工場の管理者にも、工員にもどうにもならない差異だ。だって、親会社から注文が来ないのだから、どうしょうもない。誰に責任があるかと言えば、あえて言えば注文の見積もりを誤った社長とか経営者だ。
もう少し言えば、操業度差異のように固定費から生じる差異っていうのは(固定費予算差異を除いて)帳簿上の数値が予定と違ったために生じただけで、現実の損ではないのだ。だからどうでもいいと言えばどうでもいい。工場内における業務改善には役に立たない差異だ。
しかし、あまりに大きな操業度差異が続くようなら、これはそもそもの投資が失敗していることを意味するわけだから、工場閉鎖、というような大きな決断に使われることはある。そういう意味合いの差異だということを知っておこう。
第2回はこちら
関連記事
- 日商簿記1級合格のための本気アドバイス(工業簿記編) 2016年10月24日
- 工業簿記の本質基礎講座・第1回(製造間接費の差異分析1) 2016年10月24日
- 工業簿記の本質基礎講座・第2回(製造間接費の差異分析2) 2016年10月25日
- 簿記1級の前提となる2級工業簿記の基礎論点 2016年10月27日
- 工業簿記の本質基礎講座・第3回(部門別計算1) 2016年10月28日
- 工業簿記の本質基礎講座・第4回(部門別計算2) 2016年10月28日
- 工業簿記の本質基礎講座・第5回(標準原価計算1) 2016年10月30日
- 工業簿記の本質基礎講座・第6回(標準原価計算2) 2016年10月31日
- 工業簿記の本質基礎講座・第7回(総合原価計算1) 2016年11月14日
- 工業簿記の本質基礎講座・第8回(総合原価計算2) 2016年11月15日
- 工業簿記の本質基礎講座・第9回(総合原価計算3) 2016年11月17日
- 工業簿記の本質基礎講座・第10回(費目別計算) 2016年11月18日
- 工業簿記の本質基礎講座・第11回(個別原価計算と仕訳) 2017年4月19日
“工業簿記の本質基礎講座・第1回(製造間接費の差異分析1)” に対して6件のコメントがあります。
コメントは受け付けていません。

水道光熱費は固定費に入っていますが、なぜその差異が固定費ではなく変動費に入っているのでしょうか?
具体的な数値をご記入頂けますと助かります。
もしかすると、予算差異△4万円を変動費としてお考えですか?
だとすると、それは違います。この予算差異は、変動費と固定費の両方から発生した差異です。
違う主旨でしたら、追記頂けますと助かります。
見てもわからないシュレッダー図が何となくですがイメージつかめそうです。
ありがとうございます。
これで簿記2級第5問の問題のとっかりつかめそうです。個のページを見比べながら問題挑戦します。
問題見るのもイヤでして。
すごく分かり易い説明ありがとうございます。
1点質問です。
実際には5,000個しか作ってないから、@150円×5,000個=75万円を帳簿に記載した
とありますが、これはシングルプランを前提にしていると理解してよろしいでしょうか。
シングルプラン、パーシャルプラン、修正パーシャルプランは、標準原価計算における記帳方法のことですね。本問は、標準原価計算ではないので、該当しません。
ありがとうございました。
全然わかっていなかったことに気がつき、とても勉強になりました。