1級商会・新株予約権付社債の会計処理の謎を解く

新株予約権付社債の会計処理について

一括法と区分法はどちらが得?

つい昨日のことです。

新株予約権付社債(転換社債型)のライブ講義中に、会計処理(一括法と区分法)について質問がありました。

「一括法と区分法では、企業としてはどちらが得なのですか?」「区分法だと株主資本に振り替わる額が社債の額面を超えてしまいますが、これはおかしくないですか?」といった質問です。

良い質問ですよね。

「試験に受かるためには、解き方を覚えればいいんだ!」という考え方の人からは、この質問は出てきません。会計処理の意味をきちんと理解してから覚えたいという思いがあるからこそ出てくる質問です。

良い学習姿勢だと思います。本質も見えてくるし、記憶にも残ります。

ということで、今回は、この質問を考えていきましょう。

なお、「いや、ちょっと待って。区分法とか一括法とか以前に、そもそも新株予約権付社債について自信が無いんだけど」という方は、以下のブログを先にご覧になってください。

1級商会・新株予約権を完全マスター(新株予約権付社債)

新株予約権付社債の会計処理のおさらい

新株予約権付社債は、「転換社債型新株予約権付社債」と「その他の新株予約権付社債」の2種類があります。それぞれの会計処理について、簡単におさらいしましょう。

転換社債型新株予約権付社債

転換社債型新株予約権付社債は、社債と新株予約権が一体となったものです。一体ですから、新株予約権部分だけを行使して、社債部分を残すことが出来ません。必ず社債を株式に換える必要があります。

発行側の会計処理は、「一括法」と「区分法」の選択が可能です。(投資側は一括法のみです)

その他の新株予約権付社債

その他の新株予約権付社債は、単純に社債に新株予約権がくっついているだけで、新株予約権だけの行使も可能です。その場合は、社債を残して現金を払い込む必要があります。なお現金の払込を社債で代用することもできます。

発行側の会計処理は、「区分法」しか選択できません。(投資側も区分法のみです)

会計処理をまとめると次のとおりです。

  発行側 投資側
転換社債型 一括法または区分法 一括法
その他 区分法 区分法

 

ここでは、転換社債型新株予約権付社債の発行側の処理を見ていきます。

転換社債型新株予約権付社債の発行側の会計処理

問題

A社(年1回決算,決算日3月末)は、X1年4月1日、次の条件で新株予約権付社債(転換社債型)を発行した。一括法を採用した場合と、区分法を採用した場合、それぞれにおける当期末の貸借対照表を示しなさい。

【X1年4月1日における貸借対照表(単位:万円)】

現金 2,000 資本金 1,000
    利益剰余金 1,000

 

【新株予約権付社債の発行条件】

  • 額面総額 100万円、社債額面 100円につき 100円で発行
  • 社債部分の払込金額 90円、新株予約権の払込金額10円
  • 社債償還期限2年、クーポンはなし。
  • 新株予約権の権利行使価格(転換価格)の総額 100万円。
  • 新株予約権の権利行使があった場合に代用払込の請求があったものとみなし、全額を資本金に計上する。

【取引】

  • X2年3月31日、決算にあたり,社債を償却原価法(定額法)により評価する。
  • X2年3月31日、新株予約権の100%の権利行使が行われ、代用払込みにより新株を発行した。

解答

【一括法】による貸借対照表(単位:万円)

現金 2,100 資本金 1,100
    利益剰余金 1,000

 

【区分法】による貸借対照表(単位:万円)

現金 2,100 資本金 1,105
    利益剰余金 995

 

解説

発行時(X1年4月1日)

期首に新株予約権付社債を発行した時点での貸借対照表は次のとおりです。(単位:万円)

【一括法】

現金 2,100 新株予約権付社債 100
    資本金 1,000
    利益剰余金 1,000

 

【区分法】

現金 2,100 新株予約権付社債 90
    資本金 1,000
    利益剰余金 1,000
    新株予約権 10

当期末(X2年3月31日)・権利行使直前

期末における新株予約権付社債の権利行使を行う直前の残高試算表です。(単位:万円)

【一括法】

現金 2,100 新株予約権付社債 100
    資本金 1,000
    利益剰余金 1,000

*一括法を採用している場合、本問では社債額面と払込金額が一致しているため、償却原価を行う必要がありません。

【区分法】

現金 2,100 新株予約権付社債 95
社債利息 5 資本金 1,000
    利益剰余金 1,000
    新株予約権 10

*区分法を採用している場合、本問では社債額面(100万円)に対して払込金額(90万円)と割引発行をしており、2年間の定額法で償却原価を行うため、社債利息5万円/新株予約権付社債5万円 の仕訳を行う必要があります。

当期末(X2年3月31日)・権利行使後(解答)

期末における新株予約権付社債の権利行使を行った直後の貸借対照表です。(単位:万円)

【一括法】

現金 2,100 資本金 1,100
    利益剰余金 1,000

*一括法を採用している場合、新株予約権付社債の全額を資本金に振り替えます。

[仕訳]
 新株予約権付社債100万円/資本金100万円

【区分法】

現金 2,100 資本金 1,105
    利益剰余金 995

*区分法を採用している場合、新株予約権付社債と新株予約権の両方を資本金に振り替えます。また、決算振替仕訳を行います。

[仕訳]
 新株予約権付社債95万円/資本金105万円
 新株予約権10万円

 損益5万円/社債利息5万円
 利益剰余金5万円/損益5万円

比較してみよう

純資産の内訳を比べてみる

一括法と区分法の貸借対照表を比較してみましょう。純資産の内訳が異なっていますよね。

一括法だと、払い込まれた100万円は全額資本金に振り替えられて1,100万円になっているのに対して、区分法だと、償却原価した分の5万円までをも資本金に振り替えられて1,105万円になっています。そのかわり、区分法の利益剰余金は5万円減って995万円になっています。

要するに、一括法は極めて単純な会計処理であり、時間価値を考えていないのです。「100万円の現金を調達してすべてを資本金にした」ということだけを表わしているのです。

一方、区分法は、期首に100万円の現金を調達したわけですが、株主になってもらうまでには、それから1年間経過しているのです。その間に発生した利息5万円をも込みにして105万円を資本金に振り替えたというわけです。そして、その利息5万円という費用が発生しているため、その分の利益が減っているのです。

つまり、どちらが正しいというより、考え方が違うのです。資金調達をしてから株主になってもらうまでの1年間に発生した利息5万円を考慮するかどうかということですね。

結局、どちらかが正しくてどちらかが間違えているとか、どちらかが得でどちらかが損ということではないわけです。

俯瞰してみる

また、この取引を俯瞰してみると少なくとも「どちらが得なのか損なのか」という疑問はすぐに解明できます。

要するに、この設例は「期首に100万円の資金を調達して、期末に株券を発行し全てを資本金した」というだけの話です。

細かい会計処理を考えるまでもなく、どのように会計処理を行おうと、貸借対照表は、現金が100万円増えて純資産が100万円増えるという形になるはずです。そう考えれば得も損もないですよね。

会計処理を変えると純資産の内訳が少々動くという話なんだな、ということが分かると思います。

このように、混乱しそうになったら、本設例のように超簡単な例を設定してみて、一歩引いて俯瞰して考えてみるとあっさり理解できたりします。連結会計なんかで頭が混乱したときにも有用です。ぜひ、試してみてください。

1級商会・新株予約権付社債の会計処理の謎を解く” に対して5件のコメントがあります。

  1. masabon より:

    いつも参考にさせて頂いております。
    1件、ご質問です。
    区分法で処理をした際に、社債が割引発行なので償却原価を行う。

    社債利息 50,000 / 社債 50,000
    その結果、期末のB/Sの利益剰余金は期首の1,000のまま。

    期末に権利行使がなされ、代用払込があった際に、

    損益 50,000 / 社債利息 50,000
    利益剰余金 50,000 / 損益 50,000 

    上記の仕訳がなされ、結果、利益剰余金が1,000から995に5円減っている。

    償却原価法により社債利息が計上された時点では、繰越利益剰余金には影響を及ばさず、
    転換があった時点で初めて、社債利息の費用計上という利益剰余金を減らす行為が実現するのでしょうか?
    同様にその他の新株予約権付社債を割引発行した場合、償却原価法で処理した場合はどうなるのか?

    ちょっとこんがらがってきました。
    よろしければ、ご教示の程をお願い申し上げます。

    1. pro-boki より:

      >償却原価法により社債利息が計上された時点では、繰越利益剰余金には影響を及ばさず、転換があった時点で初めて、社債利息の費用計上という利益剰余金を減らす行為が実現するのでしょうか?

      いえいえ、そういうことではなくて、単純に簿記一巡の話です。

      開始仕訳→(必要なら)再振替仕訳→期中仕訳→決算整理仕訳→決算振替仕訳→帳簿の締め切り

      という簿記一巡は大丈夫ですか?(2,3級の話ですが、意外と1級受験生でもこのあたりしっかり理解出来ていない方が少なくないです)

      以下の仕訳のうち、①は期中仕訳、②と③は決算振替仕訳です。

      ①新株予約権付社債95万円/資本金105万円
       新株予約権10万円
      ②損益5万円/社債利息5万円
      ③利益剰余金5万円/損益5万円

      当然ながら、決算振替仕訳を行わないと、繰越利益剰余金は動きません。新株予約権付社債がどうしたという話ではなくて、簿記一巡の話です。

  2. masabon より:

    富久田先生

    ご説明、有難うございました。
    よく理解できました。

  3. 口内炎が痛いよ より:

    お久しぶりです。
    1つ質問があるのですが、 
    区分法か一括法どちらがお得か考える上で、
    区分法だと社債を調整する際に、
    PL社債利息 5 BS社債 5
    PL科目が発生し、法人税を計算する際に影響が出るかと思ったのですが、出ないものなのでしょうか…。

    1. pro-boki より:

      すみません、返信遅くなりました。

      あまり深く考えていませんが、トータルでは損得ないのでは?と思います。

      例えば、社債部分9,000、新株予約権部分1,000の新株予約権付社債で額面総額が10,000、償還まで5年だとします。
      一括法だと、単に10,000で発行して、10,000で償還するだけですから、税金の影響受けません。

      一方、区分法だと、5年トータルで1,000の社債利息が生じますから、その分だけ法人税の影響が出ます。もし、税率が30%なら300お金が返ってきます。
      しかし、5年後、行使されずに償還するときは社債額面の10,000を返せばいいわけです。新株予約権が未行使なので新株予約権戻入益が1,000発生しここに税金が掛かります。そこで税率が30%なら300余計にお金取られます。結局、トータルでは、プラスマイナスゼロじゃないの?と思います。

      他のケース(途中で行使されたとか、一部だけ行使されたとか)は考えてませんが、直感的には損得ないんじゃないの?と思います。ぜひシミュレーションしてみてください。

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