究極にやさしい税効果会計その2

税効果会計インデックス
- 第1回:税効果会計の基礎の基礎
- 第2回:税効果会計を適用したときの仕訳と損益計算書の表示
- 第3回:会計上と税務上で見解が異なるのは具体的にどういうとき?
- 第4回:繰延法と資産負債法って何?(なぜ有価証券評価差額金も税効果会計対象?)
- 第5回:連結会計で税効果会計をするのはなぜ?
- 第6回:その繰延税金資産って本当にそれだけの資産価値ある?
税効果会計の問題を解いてみよう
では、本試験レベルの税効果会計の問題をやってみましょう。え?いきなり出来るの?と思われるかもしれませんが、大丈夫です。細かいことにこだわらずに、問題を大枠で捉えれば簡単に出来ます。
問題
下記の資料にもとづいて、税効果会計に係る仕訳を示し、損益計算書と貸借対照表の一部を作成しなさい。
- 当期末において、未払事業税7,000円、貸倒引当金8,000円が損金として認められなかった。
- 法定実効税率は40%である。
- 当期より営業を開始したものとし期首時点において繰延税金資産および繰延税金負債はないものとする。
- 当期末の会計上の税引前当期純利益は100,000円だった。
解答
仕訳
| 借方科目 | 金額 | 貸方科目 | 金額 |
| 繰延税金資産 | 6,000 | 法人税等調整額 | 6,000 |
損益計算書
| 税引前当期純利益 | 100,000 | |
| 法人税、住民税及び事業税 | 46,000 | |
| 法人税等調整額 | △6,000 | 40,000 |
| 当期純利益 | 60,000 |
貸借対照表
繰延税金資産 6,000円
解説
用語を覚えましょう
まずは、用語を覚えましょう。会計上の収益、費用、利益に相当する税務上の概念をそれぞれ益金、損金、所得といいます。収益と益金、費用と損金は、それぞれ概ね一致しますが、一部でズレます。つまり、本問の場合、会計上の利益は100,000円だけど、税務署の所得は100,000円とは限らないということです。
そして、法人税等は、この税務署の算定した所得に対して税率を掛けて計算されます。この所得のことを課税所得といいます。
課税所得の算定
では、本問の場合、課税所得はいくらなのでしょうか?
それは「未払事業税7,000円、貸倒引当金8,000円が損金として認められなかった」から読み取ることができます。
これ、会計上は、未払事業税、貸倒引当金の設定に係る全部を費用として計上したけど、そのうち未払事業税7,000円、貸倒引当金8,000円の合計15,000円については損金として認められなかった、といっているわけです。
つまり、会計上の利益100,000円に対して、税務署はこの算定のもとになる費用のうち15,000円を認めてくれませんので、課税所得は115,000円になります。
法人税等の額
課税所得が115,000円ですから、法人税等は、これに税率40%を掛けて46,000円です。お上には逆らえないので、素直に払います。仕訳にすると、次のとおりです。
法人税等46,000/未払法人税等46,000
ただし、この「未払事業税7,000円、貸倒引当金8,000円の合計15,000円」は、未来永劫、損金として認められないのではなくて、今は認めないよと言っているだけです。翌期以降認められます。なので、その分6,000円(=15,000円×40%)は、税金を前払いしているようなものです。
このように一時的に損金として認めてもらえないけど、将来認めてもらえる差異のことを将来減算一時差異といいます。これは、税金の前払いにより、将来支払う税金が減算される効果のあることを意味しています。
仕訳は次のとおりです。
繰延税金資産6,000/法人税等調整額6,000
さきの仕訳とあわせて、46,000円の法人税等(費用)を払ったけど、うち6,000円は前払い費用なので、繰り延べるという意味ですね。前の記事にあった前払家賃と同じ考え方です。
さて、この仕訳を行った結果、どのような損益計算書になるのでしょうか。
損益計算書
| 税引前当期純利益 | 100,000 | |
| 法人税、住民税及び事業税 | 46,000 | |
| 法人税等調整額 | △6,000 | 40,000 |
| 当期純利益 | 60,000 |
分かりやすいですよね。税務上の法人税等は46,000円です。そのうち6,000円は前払い分なので、当期に帰属する会計上の法人税等は40,000円です。その結果として、当期純利益は60,000円だということを表しているのです。
翌期はどうなるか
さて、翌期はどうなるのでしょうか。先の問題は、繰延税金資産も繰延税金負債もゼロの状態からのスタートでした。今度は、繰延税金資産6,000円からのスタートです。
問題
下記の資料にもとづいて、税効果会計に係る仕訳を示し、損益計算書と貸借対照表の一部を作成しなさい。
- 前期末において、未払事業税7,000円、貸倒引当金8,000円が損金として認められなかった。
- 当期末において、未払事業税8,500円、貸倒引当金9,500円が損金として認められなかった。
- 法定実効税率は40%である。
- 期首時点における繰延税金資産は6,000円である。
- 当期末の会計上の税引前当期純利益は120,000円だった。
解答
仕訳
| 借方科目 | 金額 | 貸方科目 | 金額 |
| 繰延税金資産 | 1,200 | 法人税等調整額 | 1,200 |
損益計算書
| 税引前当期純利益 | 120,000 | |
| 法人税、住民税及び事業税 | 49,200 | |
| 法人税等調整額 | △1,200 | 48,000 |
| 当期純利益 | 72,000 |
貸借対照表
繰延税金資産 7,200円
解説
繰延税金資産の動き 〜損金として認められたとき〜
前期末時点では、15,000円(将来減算一時差異)が損金として認められませんでした。これは、いつ損金として認められるのでしょうか。
未払事業税は実際に税金を現金を支払ったとき、貸倒引当金は該当する売上債権が消滅したときに損金として認められます。このように税務上、損金として認められることを認容といいます。あまり使わな言葉ですよね。容認なら使いますけど。
認容されると、15,000円(将来減算一時差異)は損金として認められ、費用認識と損金認識が一致するのです。仕訳にすると次のとおりです。
法人税等調整額6,000/繰延税金資産6,000…①
前期末の逆仕訳ですね。この仕訳は、次のように解釈すると理解しやすいかもしれません。
当期に15,000円が損金として認められたことで、会計上の法人税等よりも税務上の法人税等の方が6,000円ほど少なくなる。損益計算書には会計上の法人税等を表示したいので、法人税等を6,000円増額しなければならない。それが借方の「法人税等調整額6,000」である。なお、法人税等が6,000円増えたからといって、この分を現金で支払うわけではない。これは、前期に前払いしておいた税金(繰延税金資産)を取り崩すことで対応する。それが貸方の「繰延税金資産6,000」である。
まあ、もっと端折って言うなら「当期、費用が発生したけど、その分は前期にすでに支払ってあるからその前払費用をあてた」ということです。前回のブログ記事で書いた前払家賃と同じ理屈です。
繰延税金資産の動き 〜当期末〜
一旦取り崩された未払事業税と貸倒引当金ですが、これが期末になると、またしても新たな未払事業税と貸倒引当金が発生するわけです。そして、これに係る繰延税金資産が発生します。
問題分には「当期末において、未払事業税8,500円、貸倒引当金9,500円が損金として認められなかった。」とあるため、(8,500円+9,500円)×40%=7,200円の繰延税金資産を計上します。仕訳にすると次のとおりです。
繰延税金資産7,200/法人税等調整額7,200…②
課税所得の算定
税引前当期純利益120,000円ですが、前期末時点の将来減算一時差異15,000円(=未払事業税7,000円、貸倒引当金8,000円)が取り崩されていますので、これを控除します。しかし当期末にまたしても18,000円(=未払事業税8,500円、貸倒引当金9,500円)の将来減算一時差異が発生していますので、これを加算します。つまり、課税所得は次のとおりです。
税引前当期純利益120,000円−取崩15,000円+発生18,000円=123,000円
法人税等の額
課税所得が123,000円ですから、法人税等は、これに税率40%を掛けて49,200円です。お上には逆らえないので、素直に払います。仕訳にすると、次のとおりです。
法人税等49,200/未払法人税等49,200
そして、税効果会計に係る仕訳は、上記①と②を合算した仕訳となります。
繰延税金資産1,200/法人税等調整額1,200…③
要するに前期末時点では6,000円の繰延税金資産(税金の前払い)があったけど、当期末時点では7,200円の繰延税金資産となっており、当期、増加した繰延税金資産は1,200円だということです。
なお、ここでは理解をしていただくために①と②の仕訳を示しましたが、実際には、貸倒引当金の設定と同様で、期末の7,200円と期首の6,000円の差額をとって、いきなり③の仕訳を起こします。(貸倒引当金における差額補充法的な処理)
損益計算書
| 税引前当期純利益 | 120,000 | |
| 法人税、住民税及び事業税 | 49,200 | |
| 法人税等調整額 | △1,200 | 48,000 |
| 当期純利益 | 72,000 |
税務上の法人税等は49,200円。一方で、そのうち1,200円は前払い分なので、当期に帰属する会計上の法人税等は48,000円。その結果として、当期純利益は72,000円だということを表しています。
税効果会計の学習の方法
まずは上記までをしっかり理解することが大切です。
実際のところ、ここまで分かれば1級の試験的にはギリギリ合格ラインに届いています。(最近の試験はもうワンランク上のレベルが求められます。これについては、このあとのブログで執筆します)
一般のテキストは、こういった大枠の説明の前に、未払事業税や貸倒引当金による差異がなぜ生じるのかについての解説が詳しく書かれています。
もちろん、それも大事なのですが、それは大枠というか税効果会計の全体像を理解したうえで学習すべき内容です。
全体像が分からずに、未払事業税とか貸倒引当金から生じる損金不算入超過額だとかの細かい論点にこだわると、問題が解けなくなります。すると税効果会計に苦手意識が芽生えてしまうのです。
細かい論点は、あとでしっかり解説します。いまはそれよりも、税効果会計の全体像とそれを適用したときに、損益計算書にどう表示されるのかをしっかりマスターしましょう。
“究極にやさしい税効果会計その2” に対して3件のコメントがあります。
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わかりやすい記事参考にさせていただいています。
ご多忙中恐縮ですが一つ質問させていただきたく存じます。
この論点、ある程度慣れて、それほど難問でなければ期末の一時差異から正解は出せるようにはなったのですが、
貸倒引当金とか減価償却累計額(いずれも負債のようなもの)が損金(費用項目)として認められないという考え方が未だに理解できていない気がします。貸倒引当金繰入額が損金として認められないというのならわかるのですが。
税務署が認める費用の”累計額”をはみ出した部分をすべて所得(利益)として扱えと税務署は要求してくるのでしょうか?
とんでもない勘違いでしたらすみません。
いや、貸倒引当金や減価償却累計額を負債ととらえて、それが費用として認められるとか認められないという考え方で税効果会計を捉えると迷路に入ると思います。
では、極めてシンプルな例を1つ。
期首に100万円を貸し付けたとします。で、期末になって経営者は10%くらいは返済してもらえなさそうだなと考えていたとします。この場合、会計的には10万円の貸倒引当金を設定できます。
貸倒引当金繰入額10万円/貸倒引当金10万円
でも、これって経営者の主観ですよね。主観で費用を自由に計上できちゃったら、その分、税金は減るわけですから、税務署としてはたまったもんじゃありません。そこで、通常は一部の企業(資本金1億円以下の中小法人)を除き貸倒引当金は認められません。
つまり税務上は「貸倒引当金繰入額10万円/貸倒引当金10万円」を認めないということです。ここまではいいですよね?
さて、繰延法によれば、この仕訳の借方側に注目し「貸倒引当金繰入額10万円」を認めるか認めないかの話をしています。会計上は認めるけど、税務上は認めないということです。
一方、資産負債法によれば、貸方の貸倒引当金10万円に注目します。つまり、会計上は「私は(貸付金という資産を)90万円しか持っていない」と言い張って、税務上は「いや、あなたは100万円持っている」と言い張るわけです。
でも、どちらの見解を取ったとして、所詮1つの仕訳(貸倒引当金繰入額10万円/貸倒引当金10万円)について、借方に注目しているか貸方に注目しているかの違いであって、本質的には同じことです。
税効果の仕訳は(税率が30%なら)「繰延税金資産3万円/法人税等調整額3万円」です。
減価償却累計額も同じです。100万円で機械を取得したとして、10万円の減価償却費を認めるかどうかという問題があったとします。この場合、機械を貸付金、減価償却費を貸倒引当金繰入額、減価償却累計額を貸倒引当金と置き換えれば同じ話ですよね。
最後にまとめとして、繰り返します。
「貸倒引当金繰入額10万円という費用が発生したから税金安くして」という見方をするか、「期首に100万円あった資産が今や90万円の価値しかない。10万円分資産が目減りしているので損しているからその分税金安くして」という見方をするかの違いであって、本質的には同じことです。
pro-boki様
質問に対する丁寧でわかりやすいご解説をいただき誠にありがとうございます。
いただいた貸倒引当金処理の例で理解が進みました。
この事例で、前期末時点で貸倒引当金がすでに100万円設定されていた場合(その対応債権には今期中に変化がないとして)は、当期末は引当金が110万円になるわけで、この、税務署が認めてくれない110万円という一時差異(当期末の差異残高)と、今期中に新たに発生した一時差異10万円(当期の差異増分:当期PL法調の計算のもと)とが、頭のなかでゴタ混ぜになっていたようです。
今後ともどうぞよろしくお願いいたします。