第150回日商簿記1級・詳細解説【原価計算】

原価計算の問題全体をとおして
難易度そのものは基本レベルです。ただ、この作問者の問題はいつもそうなのですが、題意の読み取りにくさやワンミスが連鎖する構造でもあり得点のしにくさを感じます。
ミスさえしなければ満点近く取れます。しかしささいなミスをすると命取りになる。よって、この作問者独特の出題のされ方を知ったうえでミス対策をしているかどうかによって合否が分かれるという印象です。
また、138回の原価計算と出題思考がよく似ています。ほんの4年前ですから過去問集にも載っています。このあたりをやっていた方にとっては高得点が稼げたのではないでしょうか。
いずれにしても、かなり出題傾向に偏りがあり、かつ、出題の仕方に癖のある作問者ですので、それに向けた対策をしていればかなり高得点が稼げます。問題自体はいつも超基本ですので。
第1問 予算編成
問1 原価標準
注意点としては、全部原価計算なのか直接原価計算なのかを間違えないようにするくらいです。直接原価計算と思い込んで固定加工費を入れなかった受験生もいたようです。ケアレスミスとしてはかなり痛いです。
| 金額 | |
| 直接材料費 | ①240 |
| 変動加工費 | ②80 |
| 固定加工費 | ③224 |
| 544 |
- ① (資料4)@48円×(資料3)5kg=@240円
- ② (資料6)840,000円÷(資料8)10,500個=@80円
- ③ (資料7)2,352,000円÷(資料8)10,500個=@224円
問2 主材料の年間購買予算
主材料の年間購買予算を計算する問題です。
そもそも予算編成がどのような手順で行われるのか、その理解を問う良問です。予算編成は、ざっくり言えば、利益計画→売上計画→生産計画→材料調達計画→資金計画の順に行われます。この流れをT勘定に書き起こせるかどうかがポイントです。
と、このように書くと何やら難しそうですが、実際に解いてみるととても簡単な問題です。所与された資料からT勘定を書き起こして、不明箇所を貸借差額から埋めていけばいいだけです。
Step1.製品
| 期首(資料11より) 100個 |
販売(資料1より) 10,000個 |
| 完成(貸借差額) 10,100個 |
期末(資料11より) 200個 |
Step2.仕掛品
| 期首(資料10より) 200個(100個) |
完成(Step.1より) 10,100個 |
| 当期製造(貸借差額) 10,200個(10,150個) |
期末(資料10より) 300個(150個) |
Step3.材料
| 期首(資料9より) 3,000kg(600個) |
払出(Step.2より) 51,000kg(10,150個) |
| 予定購入(貸借差額) 50,000kg(4,000個) |
期末(資料9より) 2,000kg(400個) |
以上より、主材料の年間購買予算:(資料4)@48円×50,000kg=2,400,000円
ちなみにですが、上記のような正しい勘定の流れを一切無視し(理解していなくて)、単純に「1万個販売予定で、1個あたりの材料費は240円だから、掛け算して240万円」としても解答自体は正解になってしまいます。もちろん、偶然答えが一致しただけで、考え方は誤っています。
私自身、一作問者の感覚としては、こういう誤った計算をした人に配点がいかないように数値設定を調整するものだと思っていたのですが、どうなんでしょうね。まあ、たまたま合っちゃった人はラッキーだったということで。
問3 売上原価予算の編成
売上原価予算を計算します。
本問は標準原価計算であり、原価標準は問1より@544円と判明しています。年間計画販売量は1万個です。だったら、@544円×1万個=544万円じゃないかと。そこに標準原価差異(操業度差異)を加減すればいいんでしょ?って思われた方、そのとおりです。
そこで答案用紙を確認します。何やらフォーマットが入り組んでいます。記入欄がたくさんある…。ここで「ああ、いきなり売上原価を求めるのではなくて、当期製造費用+期首−期末 で求めろってことか」と気付けたかどうかがポイントでした。
良い問題だと思います。いわゆる「分かっている人には当たり前」「分かってない人は手が出ない」問題です。
| 単価 | 数量 | 金額 | |
| 直接材料費 | 240 | ①10,200 | 2,448,000 |
| 変動加工費配賦額 | 80 | ②10,150 | 812,000 |
| 固定加工費配賦額 | 224 | ②10,150 | 2,273,600 |
| 当期総製造費用 | 5,533,600 | ||
| 期首在庫 | ③132,800 | ||
| 合計 | 5,666,400 | ||
| 期末在庫 | ④226,400 | ||
| 差引 | 5,440,000 | ||
| 予定操業度差異 | 224 | ⑤350 | 78,400 |
| 売上原価予算 | 5,518,400 |
- ① 仕掛品勘定における当期製造数量
- ② 仕掛品勘定における当期製造数量の完成品換算量
- ③ 以下の合計
期首仕掛品分:@240円×200個+(@80円+@224円)×100個=78,400円
期首製品分:@544円×100個=54,400円 - ④ 以下の合計
期末仕掛品分:@240円×300個+(@80円+@224円)×150個=117,600円
期末製品分:@544円×200個=108,800円 - ⑤ 基準操業度10,500個−仕掛品勘定における当期製造数量の完成品換算量10,150個=350個
本問での重要ポイントは、⑤の操業度差異の算定です。基準操業度10,500個と予定実際操業度10,150個の差異から算定します。この点についてピンと来ない方は、基本からやりなおしましょう。応用問題とかやってる場合じゃないです。
問4 販売費および一般管理費の年間予算
高低点法で販管費を算定せよという問題。どこからどう見ても2級レベルの問題です。ただし、問題文をよく読まないと引っ掛かります。「正常操業圏は正常生産量の85%〜100%」とあります。そもそも、この一文を読み落としたり、もしくは、正常生産量10,500個を年間計画販売量10,000個と読み間違えると致命傷をくらいます。
まあ、読み間違える方が悪い、といってしまえばそれまでですが…。ちょっと後味悪いというかなんというか。(ここでミスると問5も自動的に×になるので、そこまで罰を重くしなくてもみたいな感じ)
くどいようですが、問題自体は2級です。正常操業圏は10,500個×85%=8,925個から、100%の10,500個までですから、その中での最高点である10,500個(販管費2,193,600円)と最低点である9,000個(販管費2,073,600円)を使えば、変動費率と固定費を算定できます。
- 変動費率:(2,193,600円−2,073,600円)÷(10,500個−9,000個)=@80円
- 固定費額:2,193,600円−@80円×10,500個=1,353,600円
- 計画販売量10,000個における販管費:@80円×10,000個+1,353,600円=2,153,600円
問5 予定売上営業利益率
相変わらず売上総利益率がお好きなようです。最近立て続けに出されています。正直、出題の趣旨がわかりません。問4まで出来ていれば瞬殺ですし、ミスしていれば自動的に連鎖して間違えます。それだけです。
| 売上高 | 8,000,000 | @800円×10,000個 |
| 売上原価 | 5,518,400 | 問3より |
| 販管費 | 2,153,600 | 問4より |
| 営業利益 | 328,000 |
- 営業利益率:328,000円÷8,000,000円=4.1%
問6 全部原価計算と直接原価計算の営業利益の差額
固定費調整の典型問題です。これも一応2級でやっているはずですが、不得意な方の多い論点でもあります。
期首在庫に含まれている製造固定費は、仕掛品100個、製品100個の合計200個です。一方で、期末在庫に含まれている製造固定費は、仕掛品150個、製品200個の合計350個です。よって、150個(=350個−200個)ほど期末の方が多いわけですから、その分だけ全部原価計算による営業利益の方が多いわけです。
- 固定加工費@224円×150個=33,600円
第2問 業務的意思決定会計
よく出ます。業務的意思決定会計。問題として極めて簡単です。本当にこんなんでいいの?1級の品格大丈夫?いままで一生懸命やってきた勉強は無駄だったの?という気分にもなります。(すみません言い過ぎですね)
しかし問題文が読み取りにくいです。この作問者の特徴なのですが、先に問を出しておいて、それを解くための条件が、その問よりも後に書かれているということがよくあります。ですから、順番に解いていくとハマります。
とりあえず、ざっと全部読んで、問われていることを確認して、解くのに必要な情報を拾い上げていくような気持ちで解くとミスしにくいと思います。
①1個あたりの総製造原価
40,000個作ると変動製造原価が16,000千円、固定製造原価が10,000千円かかります。では1個あたりの総製造原価は?
- (変動製造原価16,000千円+固定製造原価10,000千円)÷40,000個=@650円
逆に「あまりに簡単すぎて、なに?どこかに引っ掛けあるの?」と疑心暗鬼にさせられました。
②特別注文を引き受けた場合の営業利益
現在は販売価格@1,000円だけど、これを新規顧客から@500円で売ってくれないかと引き合いがあった。引き合いを受けると営業利益は(②)千円に増加する。
定番中の定番問題です。貢献利益の分だけ得するよって問題。
変動製造原価は①のとおり@400円、変動販売費は4,000千円÷40,000個=@100円。よって、変動費は@500円。ん?それを@500円で売るの…?貢献利益出ないんですが…。といってここで固まった方は少なくないでしょう。
これ、さらに先まで読むと追加条件が記載されていることに気付きます。要する特別注文受けても追加販売費はないよと書かれているのです。となると、変動費は変動製造原価の@400円だけとなり、これを@500円で販売するので@100円儲かるわけです。注文は4,000個なので400千円営業利益が増加するわけですね。
よって、解答を400千円とした方も少なからずいることでしょう。しかし、それでは×なんです。
もし、問題文が「営業利益は(②)千円増加する」だったら400が正解です。しかし、本問は「営業利益は(②)に千円増加する」なのです。いくら増加するかではなく、いくらになるかを聞かれています。こういうところで落とすと浮かばれないですね…。
損益計算書(特別注文引受前)
| 売上高 | 40,000 |
| 変動製造原価 | 16,000 |
| 変動販売費 | 4,000 |
| 固定費(製造) | 10,000 |
| 固定費(販管費) | 2,758 |
| 営業利益 | 7,242 |
上記のとおり、特別注文引受前の営業利益は7,242千円です。特別注文を引き受けると営業利益は400千円増加しますから解答は、7,242+400=7,642千円です。
③営業利益が増加する特別注文の最低価格
損しないための特別注文の最低価格です。変動費(変動製造原価@400円)を超えた価格で受注できれば損しませんから、②で計算したとおり、@400円です。これも、本当にこれでいいの?と不安になるレベル。
④用語選択問題
本問は業務的意思決定であり、語群からは「差額利益」しか選択しようがないですね。
⑤特別注文を受けたときの営業利益率
1個あたり475円で4,000個特別注文を引き受けたときの営業利益率は何%か?
本当に営業利益率が好きなんですね。素直にPL書けばおしまいです。
| 売上高 | ①41,900 |
| 変動製造原価 | ②17,600 |
| 変動販売費 | 4,000 |
| 固定費(製造) | 10,000 |
| 固定費(販管費) | 2,758 |
| 営業利益 | 7,542 |
- ① 40,000千円+@475円×4,000個=41,900千円
- ② 16,000千円+@400円×4,000個=17,600千円
- 営業利益率:7,542千円÷41,900千円=18%
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いつもすっきりとした講評に、関心しております。工業簿記にもコメントを残させて頂いた、兄個人丸です。
今回の原価計算では、第2問のところで、変動販売費のところで引っかかってしまいました。おかしい、
営業利益が増えるはずないということで、混乱してしまい、その後の文章読み取りでも、追加的な販売費は
発生しないという部分を、うまく理解することができなくなってしまいました。そのため、固定費を1個当りで
計算して、過去販売した製品の営業利益が増加して..というような変な方向にどんどん進んで行ってしまいました。
第一問では、”公式法変動予算の設定””高低点法”といった言葉に記憶がなく、問4以降に手が出せなかったです。
今回、再び、基礎的な学力のなさを痛感しつつ、かつ過去問中心の独学にすこし限界を感じました。
>”公式法変動予算の設定””高低点法”といった言葉に記憶がなく、問4以降に手が出せなかったです。
高低点法は、確かに最近の過去問では出ていませんでしたね。ただ、2級ではたびたび出ていますし、高低点法の考え方は別の論点でも随所に出てきますから、しっかり押さえて頂ければと思います。
もしかするとなのですが、過去問を解くことが作業になってしまわれていませんか。
過去問がなぜ大事かといえば、それは、過去問を繰り返し解くことで、作問者が何を考えどのようなことを受験生に理解してほしいのかを読み取ることが出来るからです。その上で、その論点の本質を掴むことが大事なのです。解くという作業が大事なんじゃないのです。
極論すれば、とりあえずは解けなくてもいいのです。計算なんて後回しでいい。
ただし「この計算は何のために行われるのか」「その背景にある考え方は何か」「なぜ、そのように計算するのか?他の方法ではまずいのか?」といったことを説明できるようになることが大事です。それを過去問からつかむのです。それが腹落ちするレベルになれば計算方法とか処理方法なんていうのは当たり前のように出来るようになります。
学習方法に対する考え方を切り替えていかれると一気に伸びると思います。
兄個人丸です。コメントありがとうございました。
ご指摘の通り、過去問を解くことに、のめり込んでいる様な学習方法でした。
やはり、学習方法を見直さないといけないなあと感じています。
有難うございました。
問4について、費目別に固変分解した方が精度は高くなると思いますが、なぜそうはならないのでしょうか?
費目別に固変分解しても、いずれの費目も販売量を基準とし固変分解するなら精度変わりませんよ。計算量が増えて面倒になるだけです。
なお、費目ごとに費用の発生要因に強く関連する基準を設定して(たとえば市場調査費は調査回数、運送費は出荷回数など)、固変分解するなら話は別です。当然、そうしたほうが精度が高くなりますが、手間が増加しそのためのコストが余計にかかります。
問4について。20X7年度の販売量10,500個だと、期末製品所要在庫200個、機首製品在庫100個から当期製造量は10,600個になるので、正常操業圏から8,925個~10,500個から外れるのではないですか?
それで高低点法から20×6年の8,800個と合わせて外してしまったのですが。
なるほど、一見すると一理ありますね。
20X7年の販売量10,500個を生産量に変換して、正常操業圏内かどうかを検討したということですね。
私も、この問題は悪問だとは思います。そもそも高低点法の操業度に販売量を指定しておきながら、正常操業圏を生産量で指定してくるとか、センスなさすぎでしょとは思います。まあ、試験問題なのでそう指定されたら、そう解くしかないわけですが・・・もやもやしますよね。
ただし、さすがに「直前真っ青さん」の理屈は通りません。
20X7年度の販売量が10,500個というのはいいとして、製品の期首在庫量100個(と期末所要在庫量200個)は、20X9年度の予算編成の話ですよね。
年度が違うわけですから、それらをごっちゃにして当期製造量10,600個という計算をするのは無理があります。
仮に百歩譲って、当期製造量が10,600個だとしても、問題文には正常操業圏は「正常生産量の85%〜100%」と書かれているわけです。それを勝手に「当期製造量の85%〜100%」と読み替えるのもマズイです。
正常生産量と当期製造量は、まるで意味が異なります。本問は、正常生産量を基準操業度とする旨の指示がありますが、これは過去3年から5年程度の実績にもとづく平均操業度を基準操業度に使うことを意味します。当期製造量は、その名の通り当期に製造する量のことです。全く意味が異なります。
このあたりの用語はとても大事ですから、正確に意味を押さえましょう。