第137回日商簿記1級原価計算レビュー

物議を醸しそうなレビュー
137回の原価計算について受講生から質問があった。せっかくなので、解き方を示すだけではなく、率直なレビューを書いてみる。
137回の問題を初めて解いたのは、本試験当日だ。解答速報を作るために解いた。で、この137回の原価計算、正直言ってさっぱり意味が分からなかった。いや、解けないという意味ではない。ちゃんと解けた。簡単だった。
じゃあなぜ意味が分からないと思ったのか。それは「この問題は、いったい受験生に何を問いたいの?」「試験委員は何を伝えたいの?」というのが見えてこなかったからだ。気持ち悪いというかなんというか…
問題を解く時、まず「出題者の意図」を探る。問題文を読むというより「何を聞きたいの?」を読む。「ああ、この論点を理解しているかどうかを聞きたいわけね」ということが分かってしまえば、効率良く確実に解けるからだ。
何を聞きたいのかが分からないと不安になる。137回の原価計算は、まさにそんな問題だった。出題者の意図が分からない。意図が分からないから何をすべきか分からない。
仕方がないので試行錯誤で解いてみた。正しいのかどうか、そして意味があるのかどうかも不明だけど、とにかくそれっぽい計算をしているうちに全部できてしまった。え?これだけ?解き終わった感触が無い。本当にこれで合ってるの?そんな感じ。でも全部合ってた。だからこそ、なおさら「なんだこれ?」という違和感を禁じ得ない。
受講生から、本問の質問があると回答しずらい。いや、解説するだけなら簡単なんだけど、そもそも何がしたいのかが不明な問題なので、気の利いたコメントを付けることが出来ない。単に解き方の解説になってしまう。
まあ、そんなことを言っても始まらないので、私なりにレビューしてみる。
第137回日商簿記1級原価計算レビュー
日商簿記の問題は著作権上、ネットに掲載出来ない。本記事は、問題文を持っている人のみが対象になってしまうこと、あらかじめご了承願いたい。
この問題の意図すること
これは、多分なんだけど、全部原価計算のP/Lだと意思決定や業績測定に向いてないから、直接原価計算のP/Lに作り直そう、というのがテーマなんだと思う。
とは言え、そこがテーマなら、もう少しやりようはあったと思う。本問は、全部原価計算についても直接原価計算についても、まるでその特徴や本質をついていない。
全部原価計算と直接原価計算の本質的な相違点は何なのか?それは、P/LやB/Sにどのように反映されるのか?全部原価計算だと管理会計上どういった問題が生じるのか?それを回避するためにはどうすればいいのか?など、受験生に問うべき論点はいくらでもあるはずだ。本問は、そういったあたりは全く触れられていなかった。
何が難しいのか
では、簡単なのかといえばそうではない。一見しただけでは、問題文の意味が分からないのだ。それを読み取るのが難しい。日本語の問題と言ってもいいかもしれない。まず、普通に問題文を読むと、次のように読めるだろう。
- 資料1には、P/Lが示されて工程別の「直接加工費」「間接加工費」が示されている。
- 資料2には「間接加工費の内訳」というタイトルで資料が与えられており、固定間接加工費が書かれている。
- よって、資料1で間接加工費の金額が判明して、資料2でその内訳の固定間接加工費が判明しているのだから、差引で変動間接加工費が計算できそうだと考えられる。
しかし、一方で、資料2には同時に「直接加工費あたりの変動加工費率」という情報も示されている。ここで、はて?となる。となると、変動間接加工費の計算って次の2種類考えられるけど、どうするの?
- 間接加工費−固定間接加工費
- 直接加工費あたりの変動加工費率×直接加工費
この辺で訳が分からなくなる。
何とか推測する(というか忖度する)
で、はたと思った。問題文にこう書いてある。「なお,間接加工費は全工程を一括した配賦率(直接加工費の300%)で配賦されている。」
ん?ということは、この資料1に示された間接加工費っていうのは、単に直接加工費を3倍した数値を記載しているだけで、実際額とは全然違うってこと?つまり、資料1の間接加工費は信じるなと。資料2に間接加工費の内訳とあるけど、それは資料1の間接加工費のことを言ってるわけじゃないよと。
…まあ、そう読み取るしかないだろうな。
というか、何が予定配賦額で、何が実際額か、くらい正々堂々と書いておけよと思う。それをナゾナゾのようにして、そこに気付くかを問う問題って管理会計の問題としてどうなのって思う。実務であり得る?「この資料や帳簿の数字が実際額か予定額かは教えてあげない。推測してみ?」なんて上司いたら、どう思う?管理会計って、そこを論点にすべきじゃないでしょ。
って感じで熱くなったけど、しょうがない。試験問題は絶対的な存在。粛々と解くしか無い。
解き方・問1
Step.1 資料1の不明箇所を推定する。
②から⑨までの数値が不明箇所。単に差引だけで計算可能。推定とかそんなおおげさな問題ではない。管理会計の要素とか全然ない。本当に転記もしくは引き算するだけの簡単なお仕事。
| 第1工程 | 第2工程 | 第3工程 | |
|---|---|---|---|
| 売上高 | 2,560,000 | 1,230,000 | 3,640,000 |
| 売上原価: | |||
| 直接材料費 | 3,200,000 | 240,000 | 160,000 |
| 直接加工費 | 300,000 | 120,000 | 60,000 |
| 間接加工費 | 900,000 | 360,000 | 180,000 |
| 前工程費 | 0 | ②2,640,000 | ⑥2,352,000 |
| 計 | 4,400,000 | ③3,360,000 | ⑦2,752,000 |
| 次工程振替高 | ①2,640,000 | ⑤2,352,000 | 0 |
| 差引:売上原価 | 1,760,000 | ④1,008,000 | ⑧2,752,000 |
| 売上総利益 | 800,000 | 222,000 | ⑨888,000 |
②:①の数値を転記
③:第2工程の売上原価を合計
④:売上高1,230,000−売上総利益222,000
⑤:③−④
⑥:⑤を転記
⑦:第3工程の売上原価を合計
⑧:⑦と同じ
⑨:売上高3,640,000−⑧2,752,000
Step.2 資料2から変動加工費を推定する
上記記載通り、「変動間接加工費=直接加工費あたりの変動加工費率×直接加工費」で計算する。
掛け算するだけ。これにより変動間接加工費は次のとおり。
第1工程:300,000×130%=390,000
第2工程:120,000×88%=105,600
第3工程:60,000×50%=30,000
Step.3 直接原価計算のPLを作る
| 第1工程 | 第2工程 | 第3工程 | |
|---|---|---|---|
| 売上高 | 2,560,000 | 1,230,000 | 3,640,000 |
| 売上原価: | |||
| 直接材料費 | 3,200,000 | 240,000 | 160,000 |
| 直接加工費 | 300,000 | 120,000 | 60,000 |
| 変動間接加工費 | 390,000 | 105,600 | 30,000 |
| 前工程費 | 0 | ①2,334,000 | ②1,959,720 |
| 合計 | 3,890,000 | 2,799,600 | 2,209,720 |
| 次工程振替高 | ①2,334,000 | ②1,959,720 | 0 |
| 差引:売上原価 | 1,556,000 | 839,880 | 2,209,720 |
| 貢献利益 | 1,004,000 | 390,120 | 1,430,280 |
| 固定費 | 720,000 | 108,000 | ③86,400 |
| 工程利益 | 284,000 | 282,120 | 1,343,880 |
売上高、直接材料費、直接加工費は、資料1のデータを写すだけ。変動間接加工費は、Step.2の数値を写すだけ。固定費は、資料2の数値を写すだけ。ほとんど写すだけ。…なんじゃこりゃ。
ただし、次工程振替高だけは、自分で計算しなければいけない。上記の①と②のことね。
でも、これも、資料1で次工程振替高が判明しているので、その比率を計算すればすぐ分かる。
第1工程:2,640,000÷4,400,000=60%
第2工程:2,352,000÷3,360,000=70%
ということで、次のようにすぐ判明する。
①:3,890,000×60%=2,334,000
②:2,799,600×70%=1,959,720
あと、③も一応、計算で算出する。っていっても、1,430,280−1,343,880という引き算を1回するだけだけど。以上で、問1は終了。
解き方・問2
もうね。これは、何と言っていいのやら。2級でもこんなの出ないよ…
貢献利益率出せって書いてあるので、貢献利益÷売上高って計算する。それも第1工程から第3工程まで同じ計算3回繰り返して、全部答案用紙に書く。はぁ。
あと、工程利益率出せって書いてあるので、工程利益÷売上高って計算する。それも第1工程から第3工程まで同じ計算3回繰り返して、全部答案用紙に書くみたい。ふぅ。
おしまい。
さいごに
まあ、あんまり物議を醸しそうなレビュー書いても、得すること何も無いので、この記事もどうかなって思ったんだけど、解き直しているうちにフツフツと怒りがね…勢いにまかせて書いてしまったよ。
いやね。受験生は毎日本当に一生懸命勉強しているんですよ。お金も掛けて、時間も掛けて頑張っている。私も何とかそれに応えようと、誠意を込めて教えている。特に原価計算は実務でも役立つし、その本質を学ぶことは人生にとっても有益。いや、ほんと、おおげさじゃなくてね。
そして、日商簿記1級はそんな受験生の思いに十分応えられるだけの魅力的な資格、そしてそれを計るための素晴らしい問題。そういう思いでやってるんですよ。なのに、こういう問題出されちゃうとね。ああ、台無しだなぁって思うんですね。まあ、勝手に期待しすぎな私が悪いんでしょうね。
でも、1級の問題の大半は素晴らしい問題です。本当に名作中の名作っていう問題もたくさんあります。たまにはこういう問題もありますが、たまたまです。
この問題が理解不能でも、あなたが悪いわけではありません。落ち込む必要ありません。元気を出して勇気をもって頑張りましょう。あと1ヶ月です。愚直にがんばりましょう。応援しています。
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2021.6月の試験に向けて過去問を解いていましたが137回の原価計算が全然できず、解説を探していた際にこの記事にたどり着きました。
個人的に難しいと感じたのは、次工程振替分の金額計算に全部原価計算ベースの%を使用するという点です。製造間接費の配賦額を修正した後でもこの%を使って次工程振替分を計算する発想に至ることができませんでした。
(期首在庫がないので金額の比がそのまま数量の比になると考えたらしっくりきましたが…)