みんな大好き!包括利益・組替調整額

さあ、いよいよ組替調整だ。簿記会計でもっとも理解不能な論点はなんですか?と聞けばきっと一番になる論点だ。でも、分かっちゃえば簡単。当たり前のことを、難しく言っているだけなので、臆せず取り組んでほしい。

包括利益の簡単な例を見ていこう

まずは、その他の包括利益と当期純利益が登場する簡単な例を見てみよう。

A社は、前期首に出資金100で設立され、その出資金でその他有価証券100を購入した。その他有価証券の前期末時価は120、当期末時価は150、当期末にそのすべてを売却した。税効果は無視し、そのほかの営業活動は一切行っていなかったとする。

仕訳ベースで考えると、次のとおりだ。

前期首(会社設立とその他有価証券の取得)
現金預金 100 資本金 100
その他有価証券 100 現金預金 100
前期末(その他有価証券の時価評価)
その他有価証券 20 その他有価証券評価差額金 20
当期首(再振替仕訳)
その他有価証券評価差額金 20 その他有価証券 20
当期末(その他有価証券の売却)
現金預金 150 その他有価証券 100
    投資有価証券売却益 50

 

前期の包括利益計算書は次のとおりだ。

<前期の連結包括利益計算書>
当期純利益
(営業活動は何もしていないから)
0
その他の包括利益
(期首100が期末120で20の含み益)
20
包括利益 20

では、当期の包括利益計算書はどうなるだろう。

<当期の連結包括利益計算書>
当期純利益
(簿価100を150で売ったから)
50
その他の包括利益 △20(?)
包括利益
(当期末純資産150−前期末純資産120)
30

その他の包括利益が△20?
確か、当期純利益は実現した利益、その他の包括利益は含み益、と習ったはずだ。いったい、いつどこで含み損20が発生したのだろう。その他有価証券は、100で買って前期末120、当期末は150だった。一度も含み損の状態にはなっていない。

どういうことだ?

と、まず、ここまでの状況をしっかり把握してほしい。

なぜ包括利益計算書がわかりにくいか

これを説明するために組替調整(リサイクリング)という概念が登場する。その定義は次のとおりだ。

組替調整額は、当期純利益を構成する項目のうち、当期又は過去の期間にその他の包括利益に含まれていた部分を言う(包括利益の表示に関する会計基準 第9項)

で、多くのテキストや講義は、これを無理やり説明するんだけど(私も昔はそうしていた)、うん、やっぱり意味が分からないよね。なので、いったんこれを無視して、先の例をベースに順を追って考えてみよう。

もう一度、さきの包括利益計算書を見てみよう。当期純利益が50になっている。これは簿価100のその他有価証券を150で売ったから得られたわけだけど、これ、いきなり100が150になったのではなくて、2年という月日を経てちょっとずつ価値が上がったわけでしょ?

前期の1年間で20上がって、当期の1年間で30上がった。で、それらは含み益だから、それぞれの会計期間で「その他の包括利益」として認識されているわけ。それが、当期末に売却によって、実現利益50になったわけだよね。

これらを全部、そのまま書くと次のようになる。
 前期の含み益(その他の包括利益)が20
 当期の含み益(その他の包括利益)が30
 当期の実現利益(当期純利益)が50
  合計利益 100

ちょっと待って。これらの利益を全部足して100っておかしいよね。取得原価100の有価証券を150で売っただけで、利益が100になるのおかしい。そりゃそうだよね。最後の実現利益50は含み益が振り替わっただけのものだから、それを足すのはおかしい。

そもそもだよ。

実現利益だの含み益だのって分けないで、いついくら儲かった?という観点からは、前期に20儲かって、当期に30儲かった。よってトータルで50儲かったという話にすぎず、とてもシンプル。そう書けばいいんだよね(事実、そういう考え方もある。リサイクリングの禁止っていう。)

だけど日本の包括利益計算書のフォーマットはそうなってない。

まず、当期純利益が50発生したということを最優先で表示する。それが書きたいなら、それだけでいいじゃない。100で買ったものが150になって50儲かった。良かったね、でいいじゃない。(事実P/Lだけ見るとそうなっている)

ところが、包括利益計算書は、そこに含み益も表示したい。当期は期末に売却する直前までに30の含み益が発生していましたよってことも表示したい。そして包括利益も30なんですよってことを表示したい。だからややこしくなる。

包括利益計算書を1から作ってみよう

あらためて、この有価証券の売買で儲かった分のリストを作ってみよう

 a.当期純利益 50
 b.前期に発生した含み益 20
 c.当期に発生した含み益 30 
 d.前期と当期に発生した含み益が実現利益に振り替わった額 △50
 上記の合計 50

これをさらに、前期帰属分と当期帰属分に分けてみる。

【前期に帰属している分】
 b.前期に発生した含み益 20

【当期に帰属している分】
 a.当期純利益 50
 c.当期に発生した含み益 30 
 d.前期と当期に発生した含み益が実現利益に振り替わった額 △50
 e.上記の合計 30

こうなる。これを包括利益計算書のフォーマットで書くと次のようになる。
 当期純利益 50
 その他の包括利益 △20
 包括利益 30

この当期純利益50は、上記のa.のこと。
その他の包括利益△20は、上記のc.とd.のこと。
包括利益30は上記のe.のことだ。

で、これだけ見ると「その他の包括利益 △20?はぁ?」ってみんなびっくりしちゃうので内訳を注記することになっている。

当期発生額 30(上記のc.のことね)
組替調整額 △50(上記のd.のことね)
その他の包括利益 △20

と、こういうことだ。
ここまで腹落ちしたら、もう一度、組替調整額の定義を読んでみよう。

組替調整額は、当期純利益を構成する項目のうち、当期又は過去の期間にその他の包括利益に含まれていた部分を言う(包括利益の表示に関する会計基準 第9項)

今度は何を言ってるかわかるでしょ?

みんな大好き!包括利益・組替調整額” に対して8件のコメントがあります。

  1. ken より:

    恐縮ですが、この記事について質問がありまして、コメントいただけますと嬉しいです。
    下記説明の部分なのですが、

    >>で、これだけ見ると「その他の包括利益 △20?はぁ?」ってみんなびっくりしちゃうので内訳を注記する>>ことになっている。

    >>当期発生額 30(上記のc.のことね)
    >>組替調整額 △50(上記のd.のことね)
    >>その他の包括利益 △20

    包括利益の問題を解いていると、包括利益は結局、その他有価証券評価差額金を期首で振り戻した残高を記入して完了だと思ってしまいます。
    組替調整をする目的はやはり、当期にいくら含み益が出たのか、そして、総額いくらの残高の含み益が損益計算書の項目となったのかが投資家にとって有用であると考えていて、この情報を提供することなのでしょうか。

    1. pro-boki より:

      >包括利益は結局、その他有価証券評価差額金を期首で振り戻した残高を記入して完了だと思ってしまいます。

      すみません、ここは、ちょっとよくわかりませんでした。「包括利益は結局…」の”包括利益”とは、”その他の包括利益”のことですかね?

      >組替調整をする目的はやはり、当期にいくら含み益が出たのか、そして、総額いくらの残高の含み益が損益計算書の項目となったのかが投資家にとって有用であると考えていて、この情報を提供することなのでしょうか。

      はい、そもそも財務報告の目的は、投資家の意思決定に有用であることですから、それが理由の1つであることは間違いないでしょう。

      と、ここで終わらせてもいいのですが、ちょっと蛇足です。個人的な見解ですが、本音ベースでは投資家にとって有用であるのは当然として、それとは別に仕方なくこのフォーマットにしているんだと思います。

      日本は、IFRSにひっぱられる形で包括利益の導入を決めました(連結F/Sのみですが)。で、この対応として、企業会計基準第25号「包括利益の表示に関する会計基準」ではざっくり次のように言っています。「我が国は今まで包括利益の表示を定めていなかった。その他の包括利益の残高は、B/Sの評価・換算差額等に表示してたけど、それだけだった」と。なので、急遽、包括利益の表示方法を決めなきゃいけなくなったわけです。

      ここでもし「利益概念でもっとも大事なのは、包括利益だよね」ってなれば、話は簡単だったのです。これなら、当期純利益と含み益の合算値だけ表示すればいいわけですから、組替調整という概念すら出てきません。上記解説で言う所のリサイクリングの禁止ってやつです。

      しかし、日本は、企業会計原則時代から脈々と続く「当期純利益が利益概念としてもっとも重要だ」という考えを捨てなかったので、分かりにくい表示をすることになりました。つまり、当期純利益をもっとも重要な利益として表示しつつも包括利益も表示し、その差額概念としてその他の包括利益を表示するということです。

      で、期中にその他の包括利益から当期純利益への振り替えが無いならいいんですけど、振り替えがあると、分かりにくいというか誤解を生む可能性が生じたわけです。つまり、その他の包括利益は、含み益・含み損を表すじゃないですか。となると、例えばこれが減っている場合、何か所有している資産に含み損が出たかのような印象を生じさせるわけです。

      いやいや、違うよと。その他の包括利益がマイナスだからといっても、含み損とは限らず、当期純利益へ振り替わった分もあるんですよ、ってことを表示したいのだと思います。でも、F/Sに書くほどの内容でもないので、注記なんじゃないでしょうか。

      あと、当期純利益がいくらってあるけど、そのうちのいくらかは、当期の成績というよりも、過年度から繰り越されてきた含み益が実現したもんなんですよってことを表す意味もありますよね。その点を表示することに意義があると考えて、注記に書かれるのだと思います。

  2. パーシモン より:

    お世話になります。
    本記事の例題について質問があります。
    ご回答いただけましたら幸いです。

    “当期に発生した含み益 30” の理解がいまいちよく分からない状態です。

    前期末 借方 その他有価証券 20 / 貸方 その他有価証券評価差額金 20 により、
    前期末に、含み益(その他の包括利益)20が発生しているのは分かります。

    そして当期首に、借方 その他有価証券評価差額金 20 / 貸方 その他有価証券 20
    の再振替仕訳により、当期首に既に含み損△20が発生していると思いました。

    よって当期首は、当期純利益(売却益)50-含み損20 = 30(包括利益)となり、
    自然に理解しておりました。

    ところが、”当期に発生した含み益 30” というのが分かりかねる次第です。
    記事中、有価証券の価値(含み益)が、前期の1年間で20上がり、当期の1年間で30上がった、とあります。
    なぜに当期の+30は、含み益なのか!と思いました。売却しているから実現しているのではないかと。

    そもそも当期発生とはどういう意味なのか。
    100(購入時)⇒120(前期末)⇒100(当期首)⇒150(売却時)
    前期末⇒売却時で、+30というのが当期発生なのか。それを測定する意味は何なのかと。

    したがいまして組換調整△50もなぜに必要なのかピンときておりません。

    自分の考えに間違いがありましたら、ご指摘を頂きたいのですが。
    お手数お掛けして大変恐縮ではありますが、独学の身で質問できるのがここにしかないため、何卒よろしくお願い申し上げます。

    1. pro-boki より:

      >そして当期首に、借方 その他有価証券評価差額金 20 / 貸方 その他有価証券 20 の再振替仕訳により、当期首に既に含み損△20が発生していると思いました。

      多分、これが混乱の原因だと思います。

      当期首に再振替仕訳をして、含み損△20が発生しているという考えてしまうと訳が分からなくなると思います。
      その他有価証券の再振替仕訳はあくまでも、帳簿上、取得原価を表示するために行われる処理です。くどいですが、帳簿上の計上額の問題です。別に期首になったら、前期に獲得していた含み益20が突然失われるわけではありません。

      >ところが、”当期に発生した含み益 30” というのが分かりかねる次第です。

      期首時点の含み益は20で、売却直前の含み益は50です。ということは当期になってから含み益が30増えたってことですよね。

      >なぜに当期の+30は、含み益なのか!と思いました。売却しているから実現しているのではないかと。

      含み益の話は、売却する直前までの話です。前期に20の含み益が発生し、当期に30の含み益が発生していた。そして、売却によって、これら含み益が一気に実現益になったという話をしています。


      最初の再振替仕訳のあたりで誤解をされてしまって、それをもとに思考を深めていったのでドツボにはまっているのではないかと。

  3. パーシモン より:

    ご回答ありがとうございます。
    再振替仕訳で含み損という考えがだめだったのですか。よくわかりました。大変勉強になりました。
    これからもプロ簿記ブログを参考に勉強頑張ります!

  4. ぺっぺ より:

    独学です。

    勉強をはじめて2年たちますが、

    組替調整額は、当期純利益を構成する項目のうち、当期又は過去の期間にその他の包括利益に含まれていた部分を言う(包括利益の表示に関する会計基準 第9項)

    ↑ この意味がずーーーーーーーーーっとチンプンカンプンでした。

    でも、このページを拝見して、ようやく理解出来ました。

    独学って難しいんですね。

    ありがとうございます

  5. manabu より:

    「その他の包括利益 △20」の部分についてなんですが、

    前期末の含み益は 20
    当期末の含み益は 0(証券は売却して手元にないので)

    よって、その他の包括利益は △20

    で何もおかしくないように思えるのですが、このような理解でよろしいのでしょうか。
    (もちろん組替調整額が50であることは理解しています)

    1. pro-boki より:

      >で何もおかしくないように思えるのですが、このような理解でよろしいのでしょうか。

      これは、次の式の理解でいいのか?という質問でしょうか?

      (本問の場合)当期末のBSのその他有価証券評価差額金0−前期末のBSのその他有価証券評価差額金20=△20

      それなら、そのとおりですよ。組替調整とか関係なく、包括利益計算書のその他有価証券評価差額金の欄を埋めるならそれが一番速いですね。

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