日商簿記1級・必ず理解できる埋没原価と機会原価

意思決定会計で必須の埋没原価と機会原価
意思決定会計の学習で重要な鍵となるのは、埋没原価と機会原価の正しい理解だ。これを理解できていないと、たとえば設備投資意思決定会計の問題で、いくらキャッシュ・フローの計算ができようとも、正味現在価値の計算方法ができようとも無駄になってしまう。埋没原価と機会原価は、そもそも、そういう計算をする以前の基本概念だからだ。
この2つの原価。分かっているようでちゃんと分かっていない人が多い。この記事では埋没原価と機会原価の本質をつかんでもらおう。
特殊原価(埋没原価と機会原価)
埋没原価と機会原価は特殊な原価だ。いままで工業簿記で学習してきた原価、たとえば実際原価とか全部原価なんていうのは、過去に掛かった費用を集計したものだ。(厳密には違うけど、ここは理解優先であえて簡略化して話を進める)
それに比べて、埋没原価と機会原価は未来の原価だ。将来的にいくらかかるの?をテーマにしたときにしか登場しない。あともう1つ特徴がある。それは、複数の案があって初めて意味を成す原価ということだ。抽象的でちょっとわかりにくいね。具体的な例を見てみよう。まずは埋没原価からだ。

埋没原価
例えば、テーマパークに旅行に行くのに、
- A案は最寄りの駅までは電車(電車賃1万円)でそこからタクシー(5千円)で行く
- B案は最寄りの駅までは電車(電車賃1万円)でそこからバス(2千円)で行く
どちらの案が得?って考えた時、
- A案は、電車賃とタクシー代の合計で1万5千円
- B案は、電車賃とバス代の合計で1万2千円
じゃあB案の方が3千円得だ、という考え方をする。ここまではいいよね。
でも、どっちみち電車賃は同額が掛かる。じゃあ無視してもいいよね、とも考えられる。すると
- A案は、タクシー代で5千円
- B案は、バス代で2千円
じゃあB案の方が3千円得だ、という考え方もできる。どちらの考え方でもかまわない。この場合、電車賃は同額が掛かるから無視されちゃった。こういう無視しても影響がない原価のことを埋没原価という。
ポイントは、「埋没原価は、意思決定に影響しない」ということ。だから、考えてもいいし、考えなくてもいい。ただ、考えない方が、計算量が減って楽だねということだ。
機会原価
さっきの話の続き。
実は、午前10時までにテーマパークに入ると入場料は7千円だけど、それを超えちゃうと9千円になっちゃうとする。そして、タクシーで行けば午前10時に間に合うけど、バスだと間に合わないとする。さあ、そこまで考慮するとA案とB案どっちが得?それぞれの案でかかるお金を集計してみよう。
- A案:電車賃1万円+タクシー代5千円+入場料7千円=2万2千円
- B案:電車賃1万円+バス代2千円+入場料9千円=2万1千円
ということで、B案の方が千円お得ということになる。
さてここで、こういう風にも考えられる。
さきの埋没原価のところで「じゃあB案の方が3千円得だ」という結論になった。ところが、B案だと午前10時に間に合わないので入場料が2千円余計にかかっちゃう。「ああ、A案を選んでおけば2千円安く入場できたのになー」ってことだ。これを「B案を選んだことで2千円得することが出来なくなった。これを原価と考えよう。」としたのが機会原価だ。
つまり「じゃあB案の方が3千円得だ」ということを基準にしつつも「機会原価が2千円ある」と考えるんだ。すると、最終的には「B案は、3千円得だけど機会原価が2千円あるから、最終的には千円お得」ということになる。
機会原価がなんだかわかっただろうか。

総額法と差額法
さっきの話では、最初に掛かるコストをすべて集計して比較した。
- A案:電車賃1万円+タクシー代5千円+入場料7千円=2万2千円
- B案:電車賃1万円+バス代2千円+入場料9千円=2万1千円
ここから、B案が千円得だ、という結論になった。こういう風に計算する方法を総額法という。
一方で、電車賃1万円はどっちみちかかるから無視しよう(埋没原価扱い)。するとタクシー代とバス代の比較になるから、B案が3千円得だ。だけど、入場料で機会原価が2千円あるから最終的にB案が千円得だ。こういう考え方を差額法という。
差額法の特徴は、どちらかの案に軸足をおいて、そこを基準に機会原価を考える点にある。この例だとB案に軸足を置いているよね。
総額法と差額法のどちらを使うべきか
総額法と差額法のどちらを使うべきか。基本的にどちらでも構わない。正しく計算すれば必ず同じ結論になるのだから。
本試験では、設備投資意思決定会計だと、計算プロセスを問われることはほぼ無いから、どちらを使ってもいい。業務的意思決定会計だと、結構問われることが多い。埋没原価はいくら?とか機会原価はいくら?と。だから、その意味を正しく理解しておかなければいけない。
それから、試験テクニックとしてどちらを使うべきか、となるとまた話は変わってくる。
上記の例だとなんだか総額法の方が簡単に思えることだろう。話がシンプルだからね。
だけれども本試験の場合、例えば設備投資意思決定会計の拡張投資なんかは、もうこれは圧倒的に差額法の方が簡単だ。ところが、設備投資意思決定会計の取替投資なんかになってくると総額法の方がやりやすい、という人が多いような気がする。
このあたりは慣れの問題もある。ただ全般的には差額法の方がやりやすい気がする。総額法は、とにかく計算量が多くなりがちで、項目を漏らしてしまうことがよくあるからだ。また、スピードは断然差額法の方が速い。
具体的な本試験対策
機会原価と埋没原価をテーマにしたミニテストを作ったのでチャレンジしてもらいたい。
経営者の余談
ちなみに、私、個人は、ほとんど差額法しか使わない。これはたぶんリアル経営者だからだと思う。経営者の頭の中は、ほぼ差額法だ。実務において、無駄なこと、つまりどうせ考えても一緒のこと(埋没すること)は考えない、という習慣があるからだ。
ちなみに、管理不能であることと埋没原価はとても近い概念だ。だって、管理不能ということは、自分ではどうにもならないってことでしょ。そんなことウジウジ考えてもしょうがない、無視しよう、となるからだ。
それから、経営者は、機会原価を常に意識している。「Aの方が一見すると得なようだけど。本当だろうか。Bを選ばなかったことで何か目に見えなくても損していることがあるのではないか」という考え方を常にしている。これは、お金だけではなくて、信頼だったり、時間だったりも含めてだ。
たとえば、何か製品を納品するにあたって、Aだと1,000万円の原価だけど、ちょっと品質落としたBなら900万円の原価で提供できるとする。しかも一見すると同じ製品に見える。じゃあBの方が100万円得だ。・・・となるけどBは品質が悪いのでたまに故障する。するとお客さんからの信頼を失う可能性がある。この失った信頼を機会原価として(いくらと評価するかは経営者によるが)、最終的に意思決定をする、という感じだ。
別の例。
目的地に電車で行くと1,000円、タクシーだと5,000円だとする。しかし電車だと30分、タクシーだと10分で到着する。金額だけなら電車は4,000円得だ。・・・だけど時間を20分損する。この失った時間を機会原価として、最終的に意思決定をするという感じだ。
この失った20分をぽーとして過ごすならその価値はほぼゼロだろう。だけど、その時間を一所懸命仕事すればその20分で10万円の価値を創出できるかもしれない。そうなると機会原価は10万円だ。だから、機会原価が高くなるような経営者になりたいと、思っている。
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こん○○は。
わかりやすい解説、ありがとうございました
“理解した”気になっていますが、
ミニテストで「…気になっている」から「理解した」と
定着できるようにしたいと思います。
お忙しいでしょうが、ミニテストもよろしくお願いいたします。
>“理解した”気になっていますが、ミニテストで「…気になっている」から「理解した」と定着できるようにしたいと思います。
大事なことですよねぇ。そこが。
ミニテストは「管理会計(岡本清先生ほか)」に掲載されている例題をベースに大幅に改訂して作っています。ここからよく本試験に出るんですよ。ミニテストを通して、本試験での実践力を付けてもらえると嬉しいです。
さすがですね~。
経営者の実務に基づく視線は違いますね。
もすごくわかりやすい。
機会原価と埋没原価はなんとなくは理解していましたが
これを読んで明確になりました。
ありがとうございます。
ミニテスト楽しみにしています。
>経営者の実務に基づく視線は違いますね。
>もすごくわかりやすい。
わお、嬉しい。一番の褒め言葉ですねぇ。
ミニテスト、月曜日にアップしようと、いままさに作問中です。
本試験での実践力を付けてもらいたいな、と思っています。