いまの時期こそ簿記の基礎を固めよう Part.2

前回の記事「いまの時期こそ簿記の基礎を固めよう Part.1」のアクセス数が多かったので調子に乗って第2段です。

今回の基礎簿記のテーマ

今回の基礎簿記のテーマは「その資産っていくら?」です。え?いくらも何もそんなの買った値段じゃないの?と思うかもしれません。いえいえ、そんなに単純な話ではないのです。具体的な問題を見てみましょう。

貸借対照表価額はいくら?

簿記3級レベルの問題です。気軽にチャレンジしてみてください。

【問題】

当社の工場で使用している機械は、当期首からちょうど3年前に3,000万円で買ったもので、残存価額ゼロ、耐用年数6年の定額法で減価償却している。

今、この機械を市場で売ると1,200万円で売れる。ただし販売手数料として100万円掛かる。また、同程度の機械は中古市場で1,800万円で販売されている。

この機械を使い営業活動をすると将来的に4,000万円の現金収入が見込まれている。

さて、この機械の当期首の貸借対照表価額はいくらか?

【解答】

1,500万円

【解説】

特に解説するまでもないでしょう。取得原価3,000万円、残存価額ゼロ、耐用年数6年の定額法で減価償却をしており、当期首は取得からちょうど3年ですから、3,000万円÷6年×3年=1,500万円です。

でもよく考えてみてほしい

ここで「1,500万円でしょ、はい、おしまい」で終わらせないで欲しいのです。よく、考えてみてください。本当に1,500万円が唯一の答えなのでしょうか。

この機械が、今、いくらで売れるか(正味1,100万円で売れます)、買い直すといくらか(1,800万円です)、この機械のおかげで将来いくら儲かりそうか(4,000万円の収入になりそうです)、そういったことを一切無視しちゃっていいんでしょうか?

そもそも貸借対照表って何を目的にしているのでしょう?辞書で「財務諸表」を引いてみましょう。「企業の財政や経営状態を、利害関係者に報告する目的で作成される各種の計算書類」(大辞林)と書かれています。

つまり財務諸表は、企業の財政や経営状態を表すことが目的なのです。なぜ、そこで1,500万円という減価償却後の金額を使うのでしょうか。

2級までは、そうやると決まっているから、そのやり方を覚えるという勉強法だったと思います。それで構いません。それで受かりますから。

でも、1級は単にやり方を覚えるだけだと行き詰まります。なぜ、機械の価額は、減価償却をしたあとの金額(1,500万円)を計上するのか?考えてみてください。

会計学を学ぶ

なぜ、こうするのか?会計処理の背景にある理論を学ぶのが、いわゆる「会計学」です。

とはいえ、1級は「会計学」といっても計算問題が中心で、理論問題は会計用語くらいしか問われません。そのため、市販の1級テキストでは、詳しく学ぶことができません。

そこで、会計本です。
世の中には素晴らしい会計本がたくさんあります。そのうちのほんの一部ですが、ご紹介します。また、本試験まで時間的余裕のある今こそ会計本を読むチャンスです。

こちらは入門編(真ん中あたりで会計本を紹介しています)

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こちらは難易度高めです

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金額とひとくちに言ってもいろいろあります

さて、本題に戻ります。

貸借対照表の資産の価額はどうあるべきなのでしょうか。先にも書いたとおり、”金額”とひとくちに言ってもいろいろあるわけです。

過去に買った金額を「取得原価」といいます。そして、この取得原価に基づいて金額を計算することを取得原価主義といいます。ですから、減価償却をしたあとの金額1,500万円を貸借対照表に載せるのは取得原価主義にもとづいているのです。

今、いくらで売れるか?その金額を「正味売却価額」といいます。これは別名「正味実現可能価額」ともいいます。同じ意味です。正味売却価額は昔からある会計基準で使われている用語で、正味実現可能価額は最近(といっても10年以上前ですが)登場した概念フレームワークで使われている用語です。

あと”正味”は”実質的な”という意味です。例えば1,200万円で売れるとしても販売手数料100万円が必要となるなら、実質的には1,100万円で売ったのと同じことです。この実質的な売却価額1,100万円のことを正味売却価額といいます。

また、今、いくらで買えるか?その金額を「再調達原価」といいます。これは、会計でも使われますが、それよりも保険関連でよく使われる用語です。たとえば、機械が災害で使えなくなったとします。しかし保険に入っていたので保険金がおりることになりました。このときに支払いの基準となるのが再調達原価(再度買い直したら1,800万円)です。

あと、この機械を使い続けたら、将来、いくら稼げるかその金額を「使用価値」といいます。なお、1年後に稼げる金額と、10年後に稼げる金額では、額面が同じでもその価値は異なりますので、通常は、現在価値に割引く計算をします。この割り引いたあとの金額のことを「割引現在価値」といいます。

まとめると次のとおりです。

  過去 現在 将来
買ったときの価額 取得原価 再調達原価
売ったときの価額 正味売却価額 割引現在価値

で、貸借対照表にはどの金額を載せるべきなの?

貸借対照表にはどの金額を載せるべきなのか?これが極めて難しいのです。

過去に買った金額は「取得原価」といいます。これに対して、今、いくらか?という金額を「時価」といいます。

どちらが優れていると思います?

取得原価主義のいいところ・時価主義のよくないところ

取得原価のいいところは客観的でかつ検証可能性があることです。納品書とか請求書を見れば過去にいくらで買ったのかが明確です。金額の算定において経営者の主観が入る余地がありません。

また、時価が取得原価よりも高くなっているとします。たとえば取得原価1,000万円で買ったものが、現在1,500万円で売却可能だとします。もし、貸借対照表に時価を載せるとすると、次のような仕訳を切ることになります。「資産500万円/評価益500万円」

すると、損益計算書には「評価益500万円」が計上されます。これを見た国は、「お、儲かってるね。じゃあ税金納めてね」となります。これを見た株主は「配当ちょーだい」となります。

でもですよ。この評価益500万円って含み益ですよね。実際に、売却して得た利益ではありません。こういうのを未実現利益っていいます。

含み益ですから実際のところ500万円なんてないのです。それにも関わらず、税金や配当金を現金で払うべきなんでしょうか。それでキャッシュが枯渇して倒産でもしたら一大事です。

ということで、時価評価すると、未実現の利益が計上されてしまい、困ったことになるわけです。これが、取得原価だと未実現利益の計上を排除できるのでそういった心配がないわけです。

取得原価主義のよくないところ・時価主義のいいところ

一方で、現実問題として、物価というのは変動します。50年前に1,000万円で買った銀座の土地が、現在は1億円の価値を持つこともあるわけです。これを「土地 1,000万円」と表示することは、果たして正しいのでしょうか。その貸借対照表は信用できるのでしょうか。と、素朴な問題も生じます。

じゃあ、どうすりゃいいんだ?

で、考えたわけです。「何を目的に、その資産を持ってるのか」それによって価額を決めようと。

本社ビルを建てるために、50年前に銀座に土地を1,000万円で購入したとします。その土地が現在1億円だろうが2億円だろうが売るつもりはないわけです。売るつもりがないのに「今、売ったらいくら」という時価で評価するのは、ナンセンスだろうと。だから土地は時価評価せずに取得原価で評価するのです。売るつもりがないからです。

機械はどうでしょう。これも、中古の機械を売って儲けたいと考えているわけではありません。使うことによって収益を得たいと考えて買ったわけです。ですから「今、売ったらいくら」という情報に価値はないのです。一方、これまで使ってきて、収益に貢献しています。その分の費用を計上したいのです。それが減価償却費であり過年度の減価償却費の合計額が減価償却累計額です。

また、使うことによって将来いくら稼げるか、その金額を資産の価額とすべきではないかという考え方もあります。一理ありますが、これは問題ありです。将来の稼ぎなんて、経営者の予測にすぎず、主観的に過ぎるし、また不確実性も高すぎます。

なので、取得原価をベースに減価償却したあとの価額がまあ良かろうと。そんなイメージで捉えるといいでしょう。

また、機械を買ったということは、少なくともその機械の価額以上には儲けられると思っているから買ったわけで、その点で、貸借対照表に書かれている機械の価額は、少なくともその価額以上の収益を将来生み出すという意味を持ちます。(ということは、将来の収益が貸借対照表価額を下回りそうなら、何かしないとまずい訳です。それが減損会計です。)

こういう視点を持つといろいろ腹落ちします

同じ資産でも、有価証券は、また異なる考え方をします。売買目的有価証券は時価評価、子会社株式は取得原価、その他有価証券は時価評価するけど評価差額は損益計算書に計上しないなど複雑ですよね。

この他にも、一見すると不思議なルールはあります。

たとえば、棚卸資産(商品)。これ、決算時に商品価値が下がっているときは、価額を切り下げて商品評価損を計上します。しかし、価値が上がっても商品評価益は計上しません。なぜでしょう?会計処理が非対称なのって気持ち悪くないですか?これにもちゃんと理由があるのです。

こういった会計処理を単に覚えるのではなくて、なぜ、そのような処理をするのか「貸借対照表に計上すべき価額はどうあるべきなんだろう」という視点で考えてみてください。

きっと、腹落ちすることがたくさんあると思います。

いまの時期こそ簿記の基礎を固めよう Part.2” に対して2件のコメントがあります。

  1. よっしー より:

    いつもブログを見て楽しく勉強しています。ありがとうございます。

    質問ですが、減損損失を認めるかどうかの時の帳簿価額は既に今年度の減価償却分も控除しているのですか?

    減損損失してから減価償却をするのか、減価償却してから減損損失するのかもあやふやになってしまいます。

    1. pro-boki より:

      >質問ですが、減損損失を認めるかどうかの時の帳簿価額は既に今年度の減価償却分も控除しているのですか?

      そのとおりです。減価償却が先です。減損会計は減価償却後の簿価にもとづいて行います。これは覚えるというより、理屈で考えて”当然だ”という感覚を持っていただきたいところです。

      減損うんぬん関係なく、当期1年間を振り返って、当該固定資産を普通に使用して決算を迎えたわけですよね。であるなら、その分の減価償却費を計上しないと費用収益対応の原則に反します。

      また、減価償却をしなかったら、その簿価は前期末時点の簿価です。比較対象が前期末時点の簿価と翌期以降の将来CFでは、理論的に整合していませんよね?

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