第167回日商簿記1級・詳細解説【工業簿記】

全体をとおしての感想
問題概要
何とも不思議な問題でした。最初に問題を見たときは、資料のあまりの多さに「何じゃこりゃ?」と驚きました。続いて、問題文を読むと、独自ルールが延々と書かれていて、言いたいことがよく分かりません。
問題概要は、工程別組別総合原価計算のようです。F01組、F02組、F03組、F04組と4つの組があり、F01組の第1工程完了品はF011、第2工程完了品はF012と品番が打たれています。この時点で分かりにくいです。せめてF01-1くらいには出来ないものかと、心の中で愚痴っていました。
続いて計算条件として、直接工の消費賃率と製造間接費の配賦率が工程ごとに示されており、材料の払い出しは総平均法を使いなさいと書かれています。また部門別計算を採用しており、第2次集計(補助部門費の製造部門への配賦)は、相互配賦法を使いなさいと、ざっくり言えば計算指示はこれだけです。
あとは、資料が延々と続くという構成です。
実は本問は、資料の読み取りが重要で、それぞれの資料にもとづいて、勘定連絡を描くだけの簡単な問題なのですが、資料の読み取りができず手も足も出なかったという人も少なくなかったと思います。
膨大な資料
本問のやっかいなところは、サマリで書けば1〜2行で済むところを何十行もの明細で資料を与えているところです。例えば材料の消費について「F01組のためにM01が100個、F02組のためにM02が140個…」と書けば1〜2行で済むところを、出庫票一覧の名のもとに4列×20行の明細データで資料を与えています。ぱっと見では、この資料が何のためのものか分からないし、また、分かったとしても、明細データのサマライズを自分でやらないといけないため面倒です。
同様に「直接作業時間は、第1工程が240時間、第2工程が280時間、間接作業時間は第1工程が80時間、第2工程が40時間」と書けば1行で済むところ、こちらも20行の作業日報データが与えられています。とはいえ、時間の欄はすべて同じ数値ですから、行数だけ数えれば良いのですが、見た目として、ものすごく面倒くさそうに見えるわけです。
このように、ぱっと見では、資料が何のためのものか分かりづらく、また膨大に見えるため、戦意喪失しやすいのだと思います。
資料が読み取れれば簡単であり良問
一方で、実際に解いてみると、実に簡単で解きやすい問題でもあります。
資料の意味を読み取って、こういう計算をしたいなら、この資料のここの情報を使えばいい、ということが見えるなら短時間で満点が取れる問題です。
その点で、短時間で満点近く取れた人と、さっぱり出来ずに足切り付近という人に分かれる問題だと思います。
私は、当初、解きながら「手作業で資料をサマライズさせるのって何なの?エクセル使えば一発じゃない。本質的じゃないので悪問だな」と思っていました。しかし、この問題が出来なかった人の声を聞くと、その多くは、エクセルうんぬん以前に与えられている資料が何を意味しているのかが分からず、勘定連絡が読めていない、ということに気付きました。逆にそこに気付けている人にとっては簡単な問題だったのです。
つまり、用語からパターンにはめる解き方をしていると、手も足も出ないけど、本質的な理解をしていれば実に簡単な問題だったわけです。その点で、この問題、いろいろと目につくところはあるけど、結構良問なのではないかと思うようになりました。
工程別総合原価計算とあるけど実際は個別原価計算
この問題を解く上でのポイントは「工程別組別総合原価計算」と書かれているけれど、実際の原価の流れは個別原価計算とほぼ同じであることに気付けるか、だと思います。また、工程と部門は同じ意味であることを理解しているか、という点も大切です。
そもそも組別総合原価計算と個別原価計算は近いのです。F01〜F04の組製品それぞれについて、製造指図書をもうけて、そこに原価を集計していると考えれば、個別原価計算と同じ考え方で解けます。ロット別個別原価計算といいます。
このあたりは、パターン解きばかりを練習していると、なかなかピンときにくいところです。一方、本質的な理解をしている方にとっては常識的な内容です。
そこを突く問題という意味では、良問だったと思います。
問題の不備
と、ここまではまあ良いとして、相変わらずの作問の甘さもありました。
「統制勘定としての材料勘定、仕掛品勘定を完成させなさい」という問題です。統制勘定って何?と思われた方も多いと思います。あまり使われない用語ですね。1級のテキストにも載っていないと思います。
これは、何かの勘定について補助簿で細かく管理している場合、総勘定元帳には、その補助簿で使われている細かい勘定のまま計上することはせず、集約した勘定で計上するのです。このときの集約した勘定を統制勘定と言います。
具体的には、得意先元帳(売掛金元帳)に「X商店100万円」「Y株式会社200万円」「Z商事300万円」と記載されている場合、それをそのまま総勘定元帳には載せないのです。合計して「売掛金600万円」として総勘定元帳に計上します。この場合の「売掛金」が統制勘定です。
このような考え方からすると本問の「統制勘定としての材料勘定」は、直接材料だけではなくて間接材料も含めて総勘定元帳に計上されているのかな、と考えられます。
ところがです。
間接材料と言ってもいろいろあります。本問の資料には、補助材料費、燃料費、工場消耗品費、消耗工具器具備品費、事務用消耗品費の消費額が記載されています。
これらのうち、どの科目が補助簿で管理されている(出入記録が取られている)のか不明なのです。補助簿に関する情報が一切ないんですね。どうしろと言うのだ…。
そのせいで、解答速報はバラバラに割れました。6/12時点の情報ですが、TACさん、CPAラーニングさん、ネットスクールさんすべてで解答が割れました。CPAラーニングさんに至っては、本解のほかに別解を2つ載せていました。(あとに詳しく書きますが、プロ簿記はネットスクールさんと同じ解答です。)
日商簿記1級クラスの試験で、これほど繰り返し不備があるのってなかなか無いですね。残念です。
解き方
まず、資料の読み取りが重要です。
本問は、「工程別組別総合原価計算」と書かれてはいますが、実際の解法は個別原価計算と同様です。F01〜F04の組製品それぞれに製造指図書がもうけられていると考え、それぞれの指図書に原価を集計する流れを考えます。
集計する原価は、直接材料費と直接労務費、製造間接費です。
直接材料費の算定のためには、まず、「出庫票一覧」の資料から、各組製品に何の材料を何個出庫したのかを読み取ります。次に、それぞれの材料の消費単価を「材料元帳集計」の資料から算定します。
直接労務費と製造間接費は、それぞれ実際配賦されており、直接作業時間にもとづく実際配賦率が計算条件に与えられています。あとは「作業日報要約表」から直接作業時間を集計するだけです。
こうして、直接材料費と直接労務費、製造間接費のF01〜F04それぞれへの当月投入額が判明します。最後に「製造実績」の資料から、月初と月末の仕掛品が判明するため、仕掛品勘定を作ることが出来るという流れになっています。
なお「製造間接費勘定実際発生額(5月)」の資料が与えられています。この資料は製造間接費勘定の借方の明細です。部門別計算であり、部門個別費は各部門に直課されていますが、部門共通費は配賦されていません。よって、部門共通費の配賦(第1次集計)を行わなければなりません。その後、第2次集計を行いますが、本問では、「他の補助部門へのサービス提供を無視しない方法」で行うよう指示されています。これは文字通りに読めば相互配賦法を指示していますが、本問は、補助部門同士の用役の提供が工場事務部門から動力部門への一方向しかないため、階梯式配賦法を用いても同じ答えになります。
最後に、本問は、この「製造間接費勘定実際発生額(5月)」のうちの一部が推定問題となっています。貸方の金額が実際配賦率×直接作業時間で算定できることから逆算で求めるようになっています。
問1 F02組への当月材料出庫額
「材料元帳集計」の資料より各材料の消費単価を算定
M01単価:(20個×890円+100個×950円)÷120個=@940円
M02単価:(20個×658円+140個×610円)÷160個=@616円
M03単価:(25個×400円+100個×400円)÷125個=@400円
M04単価:(20個×1,140円+60個×1,220円)÷80個=@1,200円
「材料出庫一覧表」の資料より各材料の消費量(出庫数量)を算定
F01組へのM01出庫数量:100個
F02組へのM02出庫数量:140個
F03組へのM03出庫数量:100個
F04組へのM04出庫数量:60個
F02組への当月材料出庫額
@616円×140個=86,240円
問2 当月の間接作業賃金・手待賃金の総額
「作業日報要約表」の資料より間接作業時間を集計
第1工程:80時間(=4時間/日×20日)
第2工程:40時間(=2時間/日×20日)
当月の間接作業賃金・手待賃金の総額
第1工程@2,000円×80時間+第2工程@2,500円×40時間=260,000円
問3 補助材料費の算定
「製造間接費実際発生額」の資料にもとづいて共通費の配賦を行う(第1次集計)
福利施設負担額
第1製造部門:300,000円÷6×2=100,000円
第2製造部門:300,000円÷6×2=100,000円
動力部門:300,000円÷6×1=50,000円
工場事務部門:300,000円÷6×1=50,000円
建物減価償却費・建物保険料
第1製造部門:1,150,000円÷1,000×500=575,000円
第2製造部門:1,150,000円÷1,000×300=345,000円
動力部門:1,150,000円÷1,000×150=172,500円
工場事務部門:1,150,000円÷1,000×50=57,500円
補助部門費の製造部門への配賦(第2次集計)
問題文に「補助部門費の配賦は、他の補助部門へのサービス提供を無視しない方法で行いなさい」とあるため相互配賦法が指示されていますが、本問では補助部門同士の用役提供が工場事務部門から動力部門のみであるため、階梯式配賦法を用いても同じ配賦額になります。そのため、以下では階梯式配賦法で処理しています。
工場事務部門費の配賦
工場事務部門費の集計:100,000円+500,000円+200,000円+50,000円+60,000円+100,000円+50,000円+57,500円=1,117,500円
工場事務部門費の配賦:
第1製造部門:1,117,500円×40%=447,000円
第2製造部門:1,117,500円×40%=447,000円
動力部門:1,117,500円×20%=223,500円
動力部門費の配賦(第2次集計)
動力部門費の集計:600,000円+100,000円+500,000円+200,000円+300,000円+50,000円+50,000円+50,000円+172,500円+223,500円=2,246,000円
動力部門費の配賦:
第1製造部門:2,246,000円×60%=1,347,600円
第2製造部門:2,246,000円×40%=898,400円
第1製造部門と第2製造部門の補助材料費の算定
第1製造部門費実際発生額(補助材料費除く)
100,000円+575,000円+447,000円+1,347,600円+59,200円+160,000円+200,000円+380,000円+152,000円+84,000円=3,504,800円
第1製造部門補助材料費:@15,000円×240時間−3,504,800円=95,200円
第2製造部門費実際発生額(補助材料費除く)
100,000円+345,000円+447,000円+898,400円+103,600円+100,000円+250,000円+328,000円+80,000円+50,000円=2,702,000円
第2製造部門補助材料費:@10,000円×280時間−2,702,000円=98,000円
問4 F02組の月末仕掛品原価
「製造実績」の資料より月末仕掛品原価を算定
F02組の月末仕掛品は、第1工程完了品が20個あるため、以下を集計する。
材料費:M02 @616円×20個=12,320円
第1工程加工費:(@2,000円+@15,000円)×12時間=204,000円
合計:216,320円
問5 材料勘定と仕掛品勘定
材料勘定
上記「全体をとおしての感想」の「問題の不備」に記載のとおり統制勘定としての材料勘定が何を意味しているのか不明です。
直接材料(資料の材料元帳)のみと考えるなら、M01〜M04についてのみ集計すれば足ります。
一方で、間接材料も含まれると考えるなら、「製造間接費実際発生額(5月)」の資料に示された以下も含まれます。
補助材料費:95,200円+98,000円=193,200円
燃料費:600,000円
工場消耗品費:59,200円+103,600円+100,000円=262,800円
消耗工具器具備品:200,000円+250,000円+200,000円+100,000円=750,000円
事務用消耗品費:84,000円+50,000円+50,000円+100,000円=284,000円
ただし、補助材料費等は出入記録を行うことが一般的ですが(原価計算基準11(一))、工場消耗品、消耗工具器具備品等は出入記録を行わないことが一般的であり、そのさいは買入額をもって消費額とします(原価計算基準11(五))。この場合、出入記録を行っていないのですから、補助簿をもうけず、いきなり製造間接費勘定に振り替えていることも考えられます。
こうした前提にもとづいて考えると、統制勘定としての材料勘定は、工場消耗品費、消耗工具器具備品費、事務用消耗品費を除いた、主要材料費と補助材料費、燃料費の合計であるとも考えられます。
しかし、本問では補助材料費と燃料費の出入記録が示されていません。そのため解答することができません。そのため、プロ簿記では、材料元帳の存在が明らかになっている主要材料のみを集計した解答を正答としています。
月初有高:20個×@890円+20個×@658円+25個×@400円+20個×@1,140円=63,760円
当月受入:100個×@950円+140個×@610円+100個×@400円+60個×@1,220円=293,600円
月末有高:20個×@940円+20個×@616円+25個×@400円+20個×@1,200円=65,120円
当月消費:貸借差額より292,240円
仕掛品勘定
月初仕掛品:問題文より270,000円
当月製造費用:
直接材料:292,240円(上記材料勘定より当月消費額)
第1工程加工費:(@2,000円+@15,000円)×240時間=4,080,000円
第2工程加工費:(@2,500円+@10,000円)×280時間=3,500,000円
合計:7,872,240円
月末仕掛品:問4より216,320円
製品:貸借差額より7,925,920円
